サブフラグメントー1の角度変化(首振り)を検出するのに最も適している方法はESRスペクトルによるものであるが、問題はスピン化合物をどの様に筋肉中のサブフラグメントー1に導入するかという点にある。筋肉中にはいろいろなタンパク質がある。スピン化合物がサブフラグメントー1以外の部分にもはいってしまうと本来のサブフラグメントー1の動きによる信号が他のものによる信号によって隠されてしまうのでこの点をどうするかが研究のポイントになる。色々と検討した結果、本実験は帆立貝の筋肉とニワトリ砂嚢平滑筋のミオシン軽鎖を用いて行なわれた。帆立貝の筋肉を50%グリセリン溶液に漬けた後生理的イオン強度の液に戻すと、浸透圧により細胞膜が破れ外部からいろいろな薬物、タンパク質を導入できるようになる。こうした筋肉をEDTAで処理するとミオシンサブフラグメントー1部分から軽鎖がはずれる。そこへ予めスピン標識したニワトリ砂嚢ミオシンの軽鎖を導入する。スピン標識はシステイン残基のSH基と反応するMaleimide Tempoによって行なった。軽鎖を置換したグリセリン筋のCa感受性を調べたところ、導入された標識軽鎖のうち85%以上が元の軽鎖が抜けた後に正しく結合したということが分かった。こうして再構成されたグリセリン処理筋のESRスペクトルを調べた。収縮中の筋肉では、軽鎖上に標識されたスピン化合物からの信号はサブフラグメントー1がかなりいろいろな方向を向いていることを示唆しているように見える。これは首ふりモデルを支持する結果であるが、まだ実験の回数が少ないのではっきりと結論を出すには条件を変えてもう少し実験を行なう必要がある。
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