トラフグ属の天然雑種の形態学的特徴を調べ、その実態を究明するため標記の研究を行った。また、トラフグ属魚類の属名に関する混乱を解決するために、トラフグ属の命名をめぐる問題点を研究した。さらに、日本周辺海域に出現するトラフグ属魚類の各種についても分類学的特徴を明らかにして、検索表を作成した。 本研究によって、トラフグ属には少なくとも天然雑種が3種類いることが明らかになった。第1の種類はシマフグとトラフグの雑種で、九州沿岸に出現する。この雑種は体がやや長く、体背面から側面にかけて斜めの模様が不規則ながらあることでシマフグに似るが、体背方が黒く、臀鰭が白い点ではトラフグに似る。第2の種類はシマフグとナシフグの雑種で、有明海に出現する。この雑種は鰭がすべて黄色く、体がやや長い点ではシマフグに似るが、体背方の地色が褐色で不規則な小白色点をもつ点ではナシフグに似る。第3の種類はマフグとトラフグまたはカラスの雑種で、東シナ海および日本海西部に出現する。この雑種は、体背方が濃緑褐色もしくは暗褐色で小白色点に覆われる点ではマフグに似るが、体の背腹に弱い小棘をもち、胸鰭後方の体側に白色線で縁どられる黒斑がある点ではトラフグに似る。 トラフグ属の学名にはTakifugu、Fugu、TorquigenerそしてSphoeroidesと様々な属名が用いられてきた。これまでの文献と国際動物命名規約を検討した結果、Takifuguのみが有効名である。FuguはTakifuguのシノニムであることが判明したので、かなり広く用いられてきたFuguという学名は国際動物命規約によって使用できない。 日本周辺海域のトラフグ属魚類の各種の分類学的特徴を明らかにして、検索表を作成した。また、これまで実態が明らかでなかったムシフグについて、幼魚も含めた特徴を示し、本種が雑種ではなく、独立種であることを明らかにした。
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