研究概要 |
中高温において、炭素鋼の疲労き裂進展に対する下限界応力拡大係数範囲ΔKthは、375℃付近で極大を示す。本研究は、繰返しひずみ時効といった材質強化機構、破面に生じた高温酸化物によるき裂閉口機構などを考慮して、下限界値に極大を生じる原因の究明を試みた。 1.下限界値ΔKthに相当する負荷を繰返す際のき裂閉口レベルKclに注目し、このレベルの高精度な測定が可能か否かが、本研究の重要なポイントである。そこで、従来と同様な高温ひずみゲージによる方法とこの科学研究費補助金の備品として購入した "高温のび計"による方法とを併用して、Kclを決定した。これより、下限界有効応力拡大係数範囲ΔKeff,thを求めたところ、このΔKeff,thには,なお,依然として極大現象が残存した。ΔKeff,thが,375℃付近で極大を示すことは、次のことを意味する。繰返しひずみ時効によるΔKthの極大は、単に、き裂の開閉口挙動のみを考慮することによって説明できるものではない。繰返しひずみ時効は、真のき裂進展抵抗の上昇に寄与できる。すなわち,ΔKthの極大は、高温酸化物によるき裂閉口レベルKclの上昇といった力学的要因のみに起因するのではなく、ひずみ時効による材質的強化機構も存在することが判明した。 2.以上は、いわゆる "長いき裂"に関する研究であるが、さらに、き裂閉口効果が存在しない "微小き裂"についても、下限界値△Kthの温度依存性を調べた。微小き裂では、ΔKth=ΔKeff,thであるが、この微小き裂の下限界値ΔKthにも極大現象が現れ、ひずみ時効による強化機構の存在が確認された。 3.高温では、き裂先端領域が酸化している。ΔKeff,thは、この酸化膜の強度を意味する可能性もあり、不活性環境中における疲労試験の実施を含め、今後の研究課題である。
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