波浪中の船舶の転覆に関する研究は古くから行われているが、転覆が起る原因とその機構について十分な力学的説明がないのが現状であり、したがって、転覆防止の対策も十分とはいえない。日本造船研究協会第31基準研究部会においても最近9年間(1978〜1986年)の漁船の浸水・転覆・沈没海難について分析しておるが、安全対策の明確な指示を出すまでには至っていない。船舶の転覆は過去11年間(1976〜1986年)に3035件発生しており、その損失は多大である。したがって、転覆の原因とその機構を明らかにすることは、常に変化する海洋という自然環境に置かれている船舶および乗員の安全を考える場合に不可欠な問題である。 本研究は、波浪中における船舶の転覆現象を明らかにするために基礎研究である。まず、転覆過程における傾斜状態の動揺特性を明らかにするため運動方程式について検討した。このとき、甲板上への海水打ち込みや打ち込み水の甲板上での挙動および動揺に与える影響についても検討した。次に、得られた検討結果を用いて、コンピュータ・シミュレーション用のプログラムの作成に着手した。また、傾斜状態の動揺特性や転覆現象の実験も進めている。 今後、甲板上への海水打ち込みや打ち込み水の甲板上での挙動および動揺に与える影響についてはより詳細に検討する必要があり、これらの影響等を十分に考慮した運動方程式およびシミュレーション用のプログラムを開発する必要がある。さらに、模型実験と比較、検討することによって船舶の転覆現象を明らかにするための転覆シミュレーションプログラムが作成できると思われる。
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