研究概要 |
近年,強度及び勒性に優れるオ-ステンパ球状黒鉛鋳鉄(以下,ADIと略記する)が注目され,その熱処理,物理的・機械的性質に関して多数の研究が行われており,一部では実用化が進んでいる.ADIの基地組織はベイナイトと多量の残留オ-ステナイトからなり,非平衡な状態にあるため、二つの相は大きなひずみを受けた状態にあると推測され,これはADIの諸性質に密接に関係していると考えられる.本研究では,X線回折線の解析によってADIの微視ひずみ,残留応力の状態を明らかにし,それが耐摩耗性,耐ころがり疲れ性にいかに関係し,またどのように変化するかを検討することを目的とした.そのために先ず汎用の自記X線回折装置にパソコンを組合わせ,X線回折線の測定・解析システムを作成した.得られた結果をまとめると,以下の通りである.1.パソコンを用いてX線回折線の測定・解析システムを作り,これが回折線のピ-ク角度,半価幅,積分幅,積分強度,格子定数,残留オ-ステナイト体積率,残留応力の計算に有効に作動することを確認した. 2.低温でオ-ステンパしたADIの場合,硬さ,残留オ-ステナイトの体積率,固溶炭素量がほぼ一定になる恒温保持時間の範囲があるが,その間においても下部組織,微視的ひずみの状態は変化する. 3.ADIのころがり疲れに関し,ころがり面のフェライト,残留オ-ステナイトのX線残留応力を測定し,ψスプリット,回折線の積分幅または半価幅の変化を追跡することによって疲れの評価,余寿命の推定ができる. 4.ADIの耐ころがり疲れ性,耐すべり摩耗性は同じ硬さのパ-ライト基地材より優れている.残留オ-ステナイト体積率は接触の繰り返しとともに減少し,これが良好な性質に関係すると考えられる.
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