研究概要 |
本研究の目的は、試料の光吸収-熱発生過程に基づくレーザー励起サーマルレンズ吸光法に適合した新しい媒体の探索と評価、さらに最大の光吸収効率を有するポルフィリンを用いて10^<-12>Mレベルの金属イオンを検出するための新しいレーザー分光法を開発することにある。本年度は、当初申請の設備品窒素レーザー(クリスタル・スペクトラ製SN-20型)が金額的に購入不可能なため、化学計測法としての立場に重点を置き検討した。以下にその成果を述べる。 1.(a)ポルフィリンの誘導体化:高感度なサーマルレンズ法を設計するには、熱伝導度の高い媒体を用いる必要がある。この観点から、種々のポルフィリンを合成した。今回、メソ位フェニル基に5個フッ素原子を有するもの(ポルフィリン核1個に対して20個のフッ素原子をもつ)が、水を除く多くの有機溶媒に可溶であることを見い出した。このポルフィリンの機能は本研究はの目的に十分合致するものである。(b)新しい媒体の探索と評価:フッ素含有ポルフィリンをフッ素系界面活性剤でミセル可溶化する研究の過程で、微量の極性有機溶媒が系に共存するとpHに依存して相分離し、極微小体積のミセル相を形成する現象を発見した。ポルフィリンの濃縮率は10^4倍である。このミセル相は透明であり、かつ極性有機溶媒を含有することから、サーマルレンズ法用媒体として適している。 2.レーザー分光法の開発:Arレーザー(454.5nm,出力300mW)を用いて、Mg-ポルフィリン錯体(希釈モデルサンプル)水溶液の螢光について調べたところ、検出限界(S/N=2)は3.37×10^<-12>Mに達した。 以上の結果から、螢光量子収率のそれ程高くないポルフィリンにおいても十分10^<-12>Mはクリアーできること、また、サーマルレンズ法に有利なポルフィリンや媒体がそれぞれ明らかになったことから、今後この研究の発展が期待される。
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