研究概要 |
過酸化水素水を酸化剤とするオレフィン類のカルボン酸への触媒的な変換法は、合成並びに工業的見地から長年興味が持たれていたが一般性のある良い方法がなかった。本研究は、オレフィン類の触媒的な酸化開裂を経るカルボン酸の合成とヘテロポリ酸塩を触媒とする過酸化水素酸化について検討した。 ヘテロポリ酸、特に12ータングストリン酸と塩化セチルピリジニウムから調製した、tris(cetylpyridinum)12-tungstophsphate,[π-C_5H_5N^+(CH_2)_<15>CH_3]_3(PW_<12>O_<40>)^<3->(CWP)、が35%過酸化水素水を酸化剤としてtーブチルアルコ-ルを溶媒とする均一反応条件のもとでオレフィン類をカルボン酸に酸化することがわかった。また、タングステン酸がpH4ー5に調整した媒体中でCWP触媒と同様にオレフィン類を良好に酸化開裂し、相当するカルボン酸を好収率で与えることがわかった。本方法は安価で無公害のタングステンを触媒とすることから工業的な一般性のあるカルボン酸合成法として注目される。また、ヘテロポリ酸を触媒に用いる過酸化水素酸化の系統的な研究がなされていないため種々の基質を用いて検討し、以下のことを明らかにした。α,βー不飽和カルボン酸は水を溶媒とすることでCWP-H_2O_2系によりα,βーエポキシカルボン酸を好収率で与えることがわかった。1,2ージオ-ル類は酸化開裂され相当するカルボン酸に変換されたが、α,ωージオ-ル類は酸化的脱水素反応を経てラクトンに変換でき、特に小員環ラクトンの合成に適していることが明らかとなった。この他、2級のアルコ-ル性水酸基は相当するケトンに変換でき、1級と2級の水酸基を含むジオ-ル類の酸化ではヒドロキシルケトンが良い収率で得られた。 以上のようにCWP触媒は過酸化水素を酸化剤として種々の有機基質を良好に酸化し、これらの反応はヘテロポリ酸のもつ新しい触媒機能として注目される。
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