研究概要 |
ポルフィリンは中心金属に関する酸化還元が研究の対象であり、ポルフィリン骨格自身の酸化還元は困難と考えられ殆んど注目されていなかった。ここではポルフィリンの隣接する2つの窒素を架橋しその平面構造に歪を与えると、生体内にあって2電子酸化還元物質として重要な役割を担っているフラビンやニコチンアミドと同様に、2電子還元体であるフロリンが容易に生成する事を見い出した。N(21),N(22)ービニリデン架橋、及び、N(21),N(22)ーエテノ架橋オクタエチルポルフィリン過塩素酸塩は架橋基で狭まれた5位のメソ位ヘハイドライドやシアナイド、エノレート、アセチリド等のカルバニオンが架橋基と同じ側(exo)から立体選択的に付加し、対応する5Hーフロリンを生成する。この5Hーフロリンは酸性条件下で空気酸化されて元のポルフィリンに戻る際にも5ーexo位の水素が選択的に反応した。実際、5ーexo位がアルキル基の場合には空気酸化は全く起こらなかったが、銅2価塩で処理するとこれらのフロリンも速やかに酸化され、N,N′ー架橋ー5ーアルキル置換ポルフィリンを定量的に与える事を明らかにした。一方、鉄ポルフィリンとトリメチルシリルジアゾメタンとの反応によって50%の収率で新規なN(21),N(22)ーエタノ架橋ポルフィリンの過塩素酸塩を得る事に成功し、これを水素化ホウ素ナトリウムで処理すると5位のメソ位にハイドライドが付加した5Hーフロリン誘導体が定量的に生成する事を見い出した。次に、γーヨードプロピルコバルト(III)ポルフィリンの酸化によって合成したNー(γーヨードプロピル)ポルフィリンを加熱する事によって炭素鎖3個で架橋したN(21),N(22)ー(1,3ープロパノ)架橋ポルフィリンを得たが、その還元生成物は非常に不安定で無色物質に分解する事も明らかとなった。以上、N(21),N(22)ー架橋ポルフィリンを開発し立体選択的酸化還元反応への応用に大きく前進した。
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