研究概要 |
キトサンイオン交換樹脂は,カニやエビの甲羅から抽出したキチンを脱アセチル化処理して得られるキトサンに陰イオン交換基を導入した金く新しい超多孔性樹脂である。本研究では,このキトサン樹脂のタンパク質吸着分離剤としての適用の可能性について検討を加え,以下の知見を得た。1.強塩基性キトサン樹脂による牛血清アルブミン(BSA)の吸着平衡関係は,pHの影響を顕著に受け,中性付近で最大の吸着量を示した。また,食塩を溶離剤として用いることが出来る。2.弱塩基性キトサン樹脂は,濃厚な無機電解質が共存する(例えば血液)からのタンパク質の吸着剤として非常に有効であることが判明した。吸着したタンパク質の溶離は,アルカリ性の緩衝液を用いるとよいことも明らかにした。3.BSAの粒子内拡散機構は,BSAの液相体濃度が1g/dm^3以下では表面拡散とポア-拡散の並列拡散機構に従うこと,また1gdm^3以下ではポア拡散律速となり収縮核モデルが適用出来ることを明らかにした。表面拡散係頭およびポア-拡散係数はpHに強く依存した。4.キトサン樹脂をカラムに充填し,破過曲線および溶離曲線を測定した。キトサン樹脂は超多孔構造を有しているにもかかわらず非常に硬いため,カラム内で圧密が起こらず,塔長,流速に無関係に液はスム-スに流れた。破過曲線の実測値は,筆者らの直角平衡に対する解析解と良い一致を示した。得られた粒子内拡散係数は,シャロ-ベッド法および攪伴槽実験で求めた結果とほぼ一致した。一方,市販のタンパク質分離用樹脂として最も一般的なデキストラン系樹脂では,塔長1cm以上に なると圧密により,中圧ポンプでは液はカラム内を流れなかった。以上の結果から,市販のタンパク質分離用の樹脂よりかなり安価に製造出来るキトサン樹脂は,タンパク質の吸着分離剤あるいは大量分取クロマト用樹脂として適用可能であることが明らかとなった。
|