研究概要 |
光に対する糸状菌の胞子形成反応はすでに5つの群に分けられているが、これまで鞭毛菌類および接合菌類の検討は殆どなされてこなかった。そのため、本研究では合わせて8種の鞭毛菌類と接合菌類の光に対する胞子形成反応を検討した。その結果、鞭毛菌類のPytophthora capsiclにおける光に対する遊走子嚢形成反応は紫外線・青色光促進型であることが明らかになった。接合菌類における光に対する胞子形成反応は光無感応型が多いが、本研究に用いいた6種の接合菌類のうち、Absidia spinosa,Choanephora trispora,Mortierella remaniana,Mucor fragilisの4種は紫外線によって胞子形成が阻害された。不完全菌類でみられる光阻害の有効波長域は450μmを中心とする青色光なので今回接合菌で認められた紫外線による胞子形成阻害反応は不完全菌の場合とは異なりかなり特異的であるといえる。 同時に、ジャガイモ夏疫病菌Alternaria solaniにおける分生胞子形成誘導や青色光による分生子梗の脱分化に伴う微細構造の変化を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、まず、多胞小体およびミエリン様体に由来する電子透過構造物(ETS)が分生子梗の先端に形成されること、ETSの中央部は空隙になっており全体としてETSはドーナッツ状の構造をしていること、細胞質はこの中央部から押し出され、限定された小さな部分だけで細胞壁に接し、先端小胞等の作用によって細胞壁の先端部に出芽孔が形成されること。この出芽孔を通り、細胞膜だけを被った細胞質が押し出されることによって分生胞子が形成されることを明らかにした。さらに、分生胞子の形成を阻害する青色光はこのETSの形成を阻害するとともに、細胞質を押し出すために必要な膨圧の高まりをもたらす大形液胞の形成を阻害する作用があることから、光の受容体が存在する部位は細胞質内の膜構造にあると推定した。
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