研究概要 |
1.細胞性粘菌Dictyostelium discoideumのミトコンドリア(mt)DNAは約54kbであるが、その約10kbにわたる配列を決めた。他の生物の遺伝子との比較やtRNAの共通配列などに注目して遺伝子の同定を行なったところ、ATPase subunit9,NADH dehydrogenase subunits1,3,6(ndh)cytochrome oxidase b(cob)機能不明のORF209,そのに、NADH dehydrogenase subunitの1つである49kdタンパク質の一部、その他small rRNAとlarge rRNAの一部、またArg,Asn,Cys,Gln,Lys,Met,fーMet,Pro,Trpに対応する9種のtRNAが存在していた。全てのtRNAがDル-プとTル-プを有し、クロ-バ-葉構造を形成出来た。ndhlとcobのアミノ酸配列を他の生物のそれと比較したところ、細胞性粘菌のmtでは普遍暗号を使用しているものと思われた。また、large rRNA遺伝子の中にはgroupー1ーintronが存在した。ORF209に関して、ホモロジ-検索を行なったところ、タバコやゼニゴケのクロロプラストやラン藻の核遺伝子に相同な遺伝子があることが分かった。また、parameciumのmtDNA中にも相同な遺伝子は存在したが、ウニ以上の高等動物mtDNAには存在しなかった。このことから、この遺伝子は生物進化の過程でmtから核に移行した遺伝子の一つであり、クロロプラストで呼吸に関与しているものと考えられる。 2.細胞性粘菌Polysphondylium pallidumの有性生殖過程におけるmtDNAの伝達様式をRFLPを用いて調べたところ、(1)両交配型(mat1,mat2)の細胞当りのmtの数や、mtDNAの長さ、それにメチル化の程度などに差がなかったので、細胞レベルでmtDNAの選択はないと考えられ、(2)mtDNAは全てuniparentalに遺伝されたが、同じ系統株間の交配の場合、mat2細胞のある遺伝子がmat1細胞のある遺伝子よりも優性であり、異なる系統株間の交配ではその核遺伝子が相互優性であると考えられた。
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