研究概要 |
本研究は動物培養細胞マウス自然発生乳癌由来FM3A細胞F28ー7株におよび細胞増殖にPhosphatidylinositol(PI)を要求する突然変異株を用いてPIが生体膜の合成,アセンブリ-にどのように関わっているか,また細胞諸機能制御との関係を明らかにし,PIおよびそれで構成される生体膜機能の生理的意義の解明を目的として研究を行った。 細胞増殖に10μM以上のmyoーinositol(Ins)の存在が必要なこの細胞では,PIを培地に添加すると,(1)細胞PI含量の増加(約4倍),(2)phoshoinositides合成の増大,(3)phosphatidylglycerol(PG)含量の減少,(4)【^3H】Insの細胞脂質画分への取り込み促進が認められた。培地に添加した【^3H】標識はPIはIns濃度また前培養時の牛胎児血清の種類で影響を受けずに細胞脂質画分に取り込まれた。細胞超音波破砕液による【^3H】Insの細胞脂質画分への取り込み(PI合成活性)を中性付近に(pH7.4),低Ins濃度で測定すると,PI:Ins交換酵素活性(PIE)はCDPジアシルグリセロ-ル依存PI合成酵素活性(PIS)の約1.5培で,PI添加によりPISは完全に阻害され,PIEはPI濃度に比例して増大した。寒天培養で脱脂血清添加,Ins存在下で細胞増殖にPI要求性を示す変異株のうち1株(6ー2ーIII)では細胞並びに脂質画分へのIns取り込みが親株に比べ40%,60ー70%に低下,世代時間が1.5ー2倍と増殖低下し、細胞凝集が減少する等の異常が認められた。また別の変異株(17ー6ー1)では液体,寒天培養共,Insを除いて,PIのみを添加しても高い増殖能を示し、またInsを除いた培地での【^3H】PI取り込みが1.4倍に増大していた。(1)培地に添加したPIによる細胞PIレベルの操作が可能になったこと,(2)PI:Ins交換酵素活性の細胞増殖における意義を示唆する知見が得られたこと,(3)変異株でのInsまたはPI取り込み等の変異は,生体膜PIおよびIns生理的役割を明らかにする意味できわめて重要な知見と考えられる。
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