研究概要 |
コレステロ-ルから胆汁酸への転換はコレステロ-ル異化の主要な経路である。胆管経由で腸管内に分泌された胆汁酸は、脂肪の消化・吸収を助けると同時にそれ自身も腸管から再吸収され胆汁成分として再利用される。この過程は一日何回となく繰り返され、その間失われた量はコレステロ-ルからの転換によって補充される。胆汁酸の腸管吸収は食餌タンパク質の質と量の影響を受けやすく、植物タンパク質(とくに大豆タンパク質)摂取によって糞中への胆汁酸排泄が増す。胆汁酸吸収に関与する吸収系は回腸末端に存在すると云われているが、吸収機能の栄養調節に関する知見は皆無に等しい。そこで本研究は、この問題点について幾らかの検討を加えた。以下、2年間の研究で得られた実験結果を要約する。 (1)〔^<14>C〕タウロコ-ル酸(0.04μCi)を含む20%大豆タンパク食または20%カゼイン食(対照)2gを与え、meal-feedingの条件に馴らしたラットに実験当日、一定時間毎、部位毎に放射活性の分布を調べ、回腸において両飼料群間で明らかな差異のあることを見出した。すなわち、大豆タンパク質摂取には、カゼイン摂取に比べ回腸における胆汁酸の腸内残留を高め粘膜組織への取り込みを低下させる効果があった。 (2)反転腸管及び分離粘膜上皮細胞を用いて、胆汁酸に対するNa^+依存性輸送活性が回腸末端部に局在することを確かめ、また輸送能が絶食により著しく低下し、その減少が輸送担体の親和性の変化でなく担体そのものの量的変化に起因することを明らかにした。 (3)高タンパク食と無タンパク食を1日2回2時間ずつ与えるmeal-feedingの条件で飼育したラット回腸による胆汁酸のin vitro吸収実験を行ない、アミノ酸(ロイシン)吸収能と違って胆汁酸吸収能には有意な日内変動の生じないことを明らかにした。 (4)高脂肪食継続摂取あるいは途中からの食餌交換によって、胆汁酸吸収能に有意な増加の起こることを見出した。類似モデルとしてアロキサン糖尿による影響を調べたが、血中インシュリン・グルカゴン濃度比が胆汁酸吸収能を制御しているという証拠は得られなかった。 (5)(7,7-azo-3α,12α-dihydroxy-5β-cholan-24-olyl)ー2ー〔^<14>C〕aminomethanesulfonateによって親和標識される刷子縁膜タンパク質の電気泳動分析を行ない、40K、57K、81K、99K、140K成分に放射活性があり、その量比が食餌条件によって変動することを見出したが、これら成分をリボソ-ムに封入して輸送活性を測る再構成実験には成功しなかった。
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