研究概要 |
1.茨城県鹿島郡の海岸地帯のクロマツ林で、1988年から1990年にかけて、マツカレハ卵に対する寄生蜂の種構成や寄生率を調べた。3種の寄生蜂マツケムシクロタマゴバチ、フタスジタマゴバチ,キイロタマゴバチによる総寄生率は全般的に低く、40%を越えることもあったものの,普通は30%以下であり,この傾向は過去十数年間における観察結果と同じであった。南北30kmにわたる調査区のうち,北部ではフタスジタマゴバチ、南部ではキイロタマゴバチの寄生率が最も高かったが、マツケムシクロタマゴバチのそれは寄主卵の早期出現や年2回出現が起こった後に一時的に高まることがあっても、3種のうちでは常に最も低かった。 2.寄主を野外に放飼して寄主の年2回出現を人爲的に再現し、これに対する寄生蜂の寄生の仕方を調べる実験を3年間にわたり行なった。放虫数に比べ得られた卵塊数は極めて少なかったが(10%以下),この原因は放飼したマツカレハの老熟幼虫や蛹(いずれも室内飼事による)が鳥に捕食されたためと思われた。卵塊出現率(卵塊数/放虫数)は季節によってやや異なっており、夏よりも秋の方が高かったが,これは鳥の捕食の仕方が異なるためではないかと考えられた。卵寄生蜂の寄生率をみると,マツケムシクロタマゴバチの寄生率は自然個体群の寄生卵に対するよりも高まっており,人爲的に野外につけ加えられた卵塊の影響が明らかに表われていると判断された。かつて寄主卵が1年に2回出現していたころ,常に高い寄生率(70〜80%)を保っていた本種が、寄主卵の出現が1年に1回へと変化(主要因は大規模な地形の変化に伴う各の微気象の変化)するにしたがって急速に寄生率を低下させていった原因は,本種がこの地方では特にマツカレハに強く依存していたためと考えられたが、今回行なった野外観察や放飼実験から2の考え方がほぼ確からしいと結論された。
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