研究概要 |
沿岸性多獲魚のマイワシは、優れた栄養価値があるにもかかわらず、そ の独特な臭いのために大半が飼料として消費されている。これは、マイワシが高度不 飽和脂肪酸に富む脂質を多く含むために酸化されやすく、容易に低分子のカルボニル 化合物などの揮発性化合物を生成してイワシ臭を発生すると考えられている。本研究 では、マイワシの食品利用の拡大の障害となる脂質過酸化及び臭気の発生の機構を明 らかにするため、皮部にその存在を認めた脂質過酸化酵素の性状について検討した。 新鮮なマイワシの皮より調整した粗酵素液を3種類のカラムクロマトグラフィー を用いて、72倍まで精製した。次に本酵素の酵素化学的性質を調べた結果、本酵素 はPH70に至適PHを有し、分子量15,000と32,000の少なくとも2つ のサブユニットから成ることを認めた。基質特異性については、本酵素は、従来よく 知られている脂質過酸化酵素のリポキシゲナーゼと同様、シス型脂肪酸のみに作用し 、特にリノール酸やα-リノレン酸に対し強い活性を示したが、トリグリセリドのよ うなエステル型脂肪酸にも強い活性を示す点で、本酵素は特異なリポキシゲナーゼで あると言える。一方、リノール酸を基質とした際の反応生成物特異性を調べたが、本 酵素反応で生じるヒドロペルオキシド異性体は、自動酸化の場合と同様であった。ま た本酵素は、420nmに吸収を有することから、ヘムタンパク質であると考えられ 、鉄イオンの添加によって活性が安定化されること及び金属キレート剤やシアン化シ リウムにより活性が阻害されることから、本酵素の活性発現にはヘム鉄が関与してい ることが示唆された。またマイワシ以外の魚類の皮部にも脂質過酸化活性のあること が観察され、本酵素の魚臭発生への関与を含め、その生理的意義を検討することが必 要と思われた。
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