研究概要 |
本研究は,戦間期近畿農業構造類型の特徴について,とくに養蚕地域に焦点をあわせて,分析したものである。分析結果の要点は次のとおりである。 1 養蚕農家が生産した繭は,製糸原料として製糸資本によって生糸に加工され,その生糸の大部分はアメリカへ輸出され,絹織物の原料として使用されていた。しかし,生糸は中国をはじめとする諸外国でも生産されており,世界生糸市場では激しい競争が行なわれていた。近畿地域の養蚕業は,このような世界生糸市場の規制の下で前進していたのである。すなわち近畿の養蚕業ないし養蚕農家は,世界経済の変動の一環として推移していたのであった。 2 近畿地域の養蚕業は,主として近郊地域の脊後地である中間地域に立地していた。すなわち大都市から離れているため市場条件も劣り、自然条件にも恵まれているとはいえなかった。しかし,養蚕業はこのような中間地域の条件に十分適合した生産として発達したもので,その主要な担い手は自小作中農であった。 3 自小作中農に繭の生産は,直接的には製糸資本によって規制されていたが,それと同時に農業生産として土地所有(地主制)によって強く規制されていた。換言すれば,養蚕地域においても,地主制は自小作中農を基盤としていた。 4 繭の生産は,主として自小作中農の家族労働によって支えられていたが,繁忙期には部分的に雇用労働が使用された。こうして,養蚕地域に不安定な地域的農業労働市場が形成されつつあった。
|