研究概要 |
筆者は昭和63年度科学研究費補助のもとに、これまでに発酵乳とスターター乳酸菌菌体が種々の変異原物質に対してその変異原性を減弱させる事実に立脚し、インドネシアに伝わる古い発酵乳 "ダディヒ"より野生株の乳酸菌を分離し、より顕著な変異原性を有する乳酸菌を分離するとともに、その細胞壁の抗変異原性の特徴を調べた。 Bukit Tinggi(スマトラ)地域から採集した "ダディヒ"を試料とした。菌叢は乳酸菌より構成され、具体的にはleuconostoc paramesenteroidesを主叢とし、ほかにStreptococcus faecalis subsp liquefaciens,S.cremoris,S.lactis,S.lactis subsp.diacetylactis,Lactobacillas casei,L.casei subsp.casei,L.casei subsp.rhamnosusなどの乳酸菌から成っていた。これら乳酸菌の抗変異原性の有無をアミノ酸加水分解物であるTrp-P1、Trp-P2、Glu-P1を変異原物質に用い、高速液体クロマトグラフィーおよびSalmonella typhimuriumTA98より造成したストレプトマイシン依存性株を用いたプレート法により検討した。その結果、これら菌体の洗浄菌体はいずれも上記の変異原物質に対して強い結合力を有し、とりわけTrp-P1およびTrp-P2に対する結合力が顕著であった。中でも主叢株であるleuconostoc paramesenteroidesはそれら変異原物質に対する結合力が最も強く、凍結乾燥菌体重量(mg)当たり19.5μg、19.9μgの結合性を示した。これら分離株の乾燥菌体粉末をマウスに投与し、糞中の変異原物質の濃度に与える影響について実験を現在続行中であり、有意の差で投与の効果が期待される。 以上の結果は発酵乳の示す抗変異原性が単に生きた乳酸菌によってのみ発現するものではなく、死んだ乳酸菌によっても十分発現されるものであることを明らかにしたものであり、乳酸菌の新たな機能として特筆されるものである。
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