本研究は、日本と東南アジアにおける小規模農家の稲作技術と経営に関する実態調査に基ずいて、農業経営発展段階を明らかにし新たな農業開発理論の構築を目指す長期研究の一環として実施したものである。本年度は、東南アジア3カ国と日本で収集済みの大量の個別農家データから稲作収支構造と所得格差の実態を解明することを目的としたが、研究着手が遅れたためタイ国で収集した444戸のデータに限定して行った。これらデータは、タイ国の南部(111戸)、中部(155戸)、北部(178戸)の3カ所における代表的な水稲二期作農村で1985年に行った〓皆調査で収集したものである。本研究では、土地制度視点から調査農家を階層区分し、それぞれの階層について稲作所得の計測を行い、階層間および地域間の重層的比較によって所得分配構造の解明を図った。その結果、次の重要な知見を得た。1.農家の平均所得は中部タイで最も高く南部タイで最低である。しかし、平均的農家はいずれも貧困水準を上回る稲作所得を実現している。単位面積当たり経営費は3カ所ともほぼ同一であり、所得水準の地域格差は生産力水準と経営規模の違いを反映している。2.農家間所得格差の要因としては、水田保有形態よりむしろ経営規模が重要である。3.稲籾1単位当たりの平均生産費によって稲作の青酸効率を検討した結果、自作農より小作農が、また小規模農家より大規模農家の方が効率的と判断された。前者は土地所有の機会費用が小作料水準より高いことによる。後者は規模の経済が発現することを示しているが、経営規模が一般的に大きい中部タイでは40ライ(6.4ha)を境に規模の非経済に転向する。4.稲作の生産効率を高め所得分配の不平等性を是正するには小規模層の小作地獲得による規模核大が望ましいとの結論を得た。タイ国の事例に基ずく結論であるが、他のアジア諸国でも妥当性を有するか否か今後の検討課題である。
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