この研究ではネコを使用して、反射性瞳孔散大の3機構 (交感神経の賦活、副交感神経の抑制および液性因子) のうち、特に液性因子を分離して、その生理学的および薬学的性質そしてその起源を実験的に検索した。ネコを塩酸ケタミンで麻酔し、上頚神経節を急性的に切除して交感神経の賦活による散瞳を切除した。つぎに、動眼神経の急性的切断またはアトロピン点眼によって副交感じ神経の抑制による散瞳を除去した。これらの処置によって反射性瞳孔散大における液性因子のみによる散瞳が単離された。反射性瞳孔散大を誘発する刺激として、坐骨神経を電気刺激した。誘発された瞳孔の変化は赤外線瞳孔計で記録し、コンピュータでデータ処理を行った。得られた結果を要約すると以下のようである。 液性因子による散瞳は、刺激後の潜時が長く (約6秒) 、頂点潜時も長い。その閾値は副交感神経抑制による散瞳のそれよりも常に高かった。また、液性因子による散瞳を誘発するためには高頻度刺激が適していた。この散瞳プロプラノロール (β遮断剤) およびヨヒンビン (α2遮断剤) の点眼および硝子体内注入によって影響されなかったが、フェノキシベンザミン (α遮断剤) およびブナゾシン (α1遮断剤) によって顕著に抑制された。さらに、副腎の血液を遮断しておくと、液性因子による散瞳は誘発されなかった。これらの結果から、液性因子は副腎髄質から放出されるカテコールアミンで、これが血液によって虹彩に運ばれ、瞳孔散大筋のα1受容体に働いて散瞳を起こすと結論された。カテコールアミンはさらに瞳孔括約筋を抑制して散瞳を促進する事を示唆する結果も得られた。反射性瞳孔散大における液性因子による散瞳の単離の過程で、副交感神経のみによる散瞳も単離され、この散瞳の性質も明らかにできた。副交感神経抑制による散瞳は潜時が極めて短く (平均342ms) 、頂点潜時も短い事が特徴的であった。
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