アドレナリン作動薬はα_1受容体を介して甲状腺ヨード有機化を促進する。α作動薬ノルエピネフリン(NE)はイノシトールリン脂質の分解を促進しイノシトール3リン酸を生成する。我々には〔^3H〕グリセロールでラベルしたマウス甲状腺を用い、NEがジグリセリド産生も増加することを見出した。この結果から、NEが蛋白質キナーゼCの活性化を介して甲状腺ヨード有機化を促進する可能性が予想される。NEの作用にCキナーゼおよびカルシウムがどのように関与しているかについて、摘出マウス甲状腺を用いて薬理学的研究を行った。NEのヨード有機化効果はメディウムからCa^3を除去すると消失したが、Ca^3除去の効果は可逆的であった。NEの作用はニフェジピン(100μm)で抑制されないがベラパミール(50μm)では抑制された。TMB-8、ダントロレン共に100μmまで影響しなかった。これからNEのヨード有機化促進作用には細胞外Ca^3の流入が必要であると考えられる。カルモジュリンアンタゴニストW-7(200μm)、トリフルオペラジン(1μm)はNEのヨード有機化を抑制し、カルモジュリンの関与の可能性も考えられる。またNEのヨード有機化促進作用は、Cキナーゼ阻害薬H-7(30μm)、ケルセチン(1μm)で抑制され、蛋白質キナーゼCの関与が示唆された。なお、カルバコール、甲状腺刺激ホルモン(TSH)による甲状腺ヨード有機化促進作用は、共にケルセチンで抑制されが、TSHの作用はトリフルオペラジンでは抑制されず、TSHの機序はNEと異ると考えられる。ケルセチンはチログロブリンヨード化に関与する甲状腺ペルオキシダーゼを阻害してヨード有機化を抑制する可能性がある。以上から、NEのヨード有機化促進作用はCキナーゼ系およびカルモジュリン系を介しておこると考えられるが、細胞内Ca^<++>介し直接甲状腺ペルオキシダーゼ活性を上昇する可能性もあると思われる。
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