研究概要 |
本研究によって以下の事実が明らかになった。 1.老化過程においてマウス乳癌ウィルスなどレトロウィルスの発現は加齢によって増加し,その結果腫瘍頻度も高くなるものと考えられる。またこの発癌過程で細胞遺伝子型のモザイクが生じることが判明し,レトロウィルスは細胞形質獲得あるいは喪失の明らかな要因となることが判明した。 2.細胞形質の転換の他の要因としてX染色体の不活性化の解除が考えられる。そこでX染色体の不活性化を検出するために,Searle's TrauslocationとPGKー1A/PGKー1Bのアロザイム系を持つマウスを用い加齢によるX染色体の不活性化の解除の検討を行った。その結果,加齢によっても腫瘍化によっても不活性化X染色体の再活性化は認められず,X染色体上の遺伝子群の発現制御は極めて安定であることが判明し,X染色体の不活性化解除は新たな細胞形質獲得の素地たりえないと結論された。 3.次いでこのようなモザイクを形成するモ-メントを与える契機として,細胞死及び再生過程で,ある特定のクロ-ンが選択的に増殖する可能性を考えた。そこで肝実質細胞が壊孔前後で細胞クロ-ン性の変化があるか否かをPGKアロザイム型の変化で調べた所,アロザイム型の変化が認められ,ある特定のクロ-ンがより再生しやすいと考えられた。 4.次いでX染色体と常染色体上の遺伝子発現の相互作用を検討した。PGKはX染色体と常染色体の両方に存在するが,通常2倍体細胞では,X染色体上の遺伝子が発現し,精子では常染色体上の遺伝子が選択的に発現する。我々は細胞再生過程をエチレングリコ-ルで修飾してもこの発現様式は変化しないことを見出した。 以上,老化過程における細胞形質は変化し,その要因としてレトロウィルスが重要であることが証明された。
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