研究概要 |
パ-キンソン病の治療の一手段として,脳・神経細胞の移植が有効である。しかし,どのような機序で機能回復が起こるのか,また,移植細胞は宿主中枢神経内に解剖学的にも機能的にも取り込まれるのか,といった問題は未解決である。そこで,本年は以下の実験を行い,移植が有効であることを明らかにした。 1.ラット片側黒質を薬物破壊し,モデル動物を作成した。術後一ケ月,アポモルフィン,またはアンフェタミンを腹腔内投与し,回転運動を誘導させ,モデル動物とした。13〜14日胎仔中脳細胞の移植は本モデル動物の回転運動を完全に抑制し,その効果は少なくとも二年以上有効でほぼ完寛したといえる。 2.移植片と神経成長因子の同時投与では移植の効果が高まることから,これらの移植が重要な役割を果たすことが示唆された。どの因子が有効であるかを解明するため,既知の因子より次の三種の因子,インシュリン様成長因子I(IGFーI),神経成長因子(NGF),線維芽細胞成長因子(FGF)に焦点を当てて解析を行った。IGFーIはパラクラインの作用機序で作用し損傷の修復と関連することを示した。NGFとFGFは神経線維の回復やシナプス形成の促進に働くことが明かとなった。この作用は抗体によって抑制されることも確認した。 胎仔細胞の移植が有効なことの理由として単に神経伝達物質を産生する神経細胞の移入だけにとどまらず,ある種の因子(例えば各種神経成長調節因子)がホスト側の神経細胞に働き,この細胞の増殖・分化を引き起こし,従来有していなかった機能が賦与され,長期・永続的に病状回復が可能になったと考えることができる。なお,この因子は各種ホルモンペプチンもその候補になると考えられ,今後の解明が待たれる。
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