研究概要 |
ホルモンの作用発現に細胞内遊離Ca^<++>がどのように関与しているかを知る目的で,まず,視床下部ホルモンを作用させた際のヒト下垂体細胞の細胞内遊離Ca^<++>濃度の変動を検討した。対象は,7例の先端巨大症,4例のプロラクチノーマ,1例の非機能性下垂体腺種で,これら患者の下垂体腺種組織を遊離細胞として実験に供した。まず,4μMのfura-2で20分間前処置した後,蛍光光度計で細胞内Ca^<++>を測定し,これに種々の視床下部ホルモンを加えてその効果を調べた。下垂体腺種細胞の細胞内Ca^<++>濃度の基礎値は97.3±5.6nMであった成長ホルモン産生腺種では,細胞内Ca^<++>濃度はTRH(10^<-6>M),GRF(10^<-7>M)で増加し,ソマトスタチン(10^<-6>M),ドーパミン(10^<-6>M)で低下した。プロラクチン産生腺種では,ドーパミン,ソマトスタチンの添加で細胞内Ca^<++>濃度が低下したが,TRHに対する反応は認めなかった。1例の非機能性下垂体腺種では,TRHに対する著名な増加反応が認められた。以上の検討から,1)TRHだでなく,GRF,ドーパミン,ソマトスタチンなどの視床下部ホルモンの下垂体細胞における作用発現に,細胞内遊離Ca^<++>濃度の変化が関与している,2)非機能性下垂体腺腫のなかにも,視床下部ホルモンに対する受容体をもつものがあることが結論された。次に,各種の細胞内情報伝達系の相互作用を知るため,この系にForskolin(10^<-5>M)あるいはTPA(10^<-7>M)を加えて,細胞内cAMPを上昇させ,あるいは蛋白キナーゼCを活性化させると,細胞内Ca^<++>濃度は,Forskolin添加時には上昇したが,TPAでは変化しなかった。更に,実際に,Ca^<++>代謝異常を示す患者で,下垂体細胞の反応性を検討した。著明な低Ca^<++>血症を呈する特発性副甲状腺機能低下症患者(27歳,男)では,視床下部ホルモンに対する下垂体の反応が一部低下していることが明らかになった。
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