研究概要 |
脳腫瘍の硼素中性子捕捉療法には既にmercaptoundecahydrododecaborate(BSH)が24年間の長きにわたって用いられ効果をあげている。しかしより効率の高い、あるいは他種の癌にも使用できるような硼素化合物は常に求められ続けてきた。カリフォルニア大学薬化学のKahlの製した硼素ポルフィリン体の一つであるboronotetraphenylporphyrin(BTPP)は脳腫瘍によく集積するといわれており,我々にもこのBTPPが提供されたので,動物の癌でこの物質の有効性を調べることとなり,その手はじめに,アルファ・オ-トラジオグラフィを試みることとした。 Kahlの確言にも拘わらず,BTPPは平成元年後半にようやく提供された。 犬の骨肉腫を移植した複数のヌ-ドマウスにBTPPを全身的ル-ト(皮下注射)で投与し6,24,48,72時間と経時的にマウスを屠殺し全身を凍結し薄片としたものに硝化セルロ-ス膜をかぶせて原子炉で中性子を照射すると硼素から二次的に発生する重粒子(ヘリウム、リチウム)が膜上に記録される。このオ-トラジオグラフィによって、このBTPPは注射後ただちに腫瘍内に入るのではなく経時的に徐々に48時間ぐらいまで腫瘍内に集積することがわかった。正常組織には集積しないので、骨肉腫の中性子捕捉療法には好都合の硼素化合物である。 しかし毒性の面で問題があるので実用化の見通しは今の所ない。 脳腫瘍患者の治療に際して血中濃度、尿中への排泄速度,脳腫瘍内濃度などを調べてこれ迄に115例以上のデ-タを得ているが、治療用投与量の範囲で検知され得る毒性、反応もなく、安全性からも効果からもBSHは脳腫瘍治療に好適な物質と考えられる。
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