研究概要 |
精巣腫瘍および性腺外胚細胞腫瘍46例について,血清抗精子抗体を測定した.症例の内訳は,精巣セミノ-マ17例,精巣非セミノ-マ26例,性腺外非セミノ-マ4例である.stage1 17例,stage2以上26例,治療前または腫瘍を有する時期に血清を採取したのは30例,治療後は17例であった.抗精子抗体の測定方法は,精子不動化試験(Isojima法)とEnzymeーLinked Immunosorbent Assay(ELISA法)を用いた.その結果,精子不動化試験では,精子不動化値は全例2以下であり,血清精子不動化抗体は陰性であった.一方ELISA却では,47例中12例25.5%で抗体価が1/32以上と陽性であった.陽性患者の内訳は,精巣セミノ-マ6例35.3%,精巣非セミノ-マ4例15.4%,性腺外非セミノ-マ2例であり,腫瘍の組織像や病期と陽性率の間には一定の傾向を認めなかった.腫瘍を有する症例での陽性率16.7%に対し,治癒後の症例では41.2%とむしろ陽性率が高い傾向を示した.治療経過と抗精子抗体の推移については,1例で治療中に陽性を示した抗体価が治療後に陰性化したが,治癒後3年以上経過するにもかかわらず抗体陽性の症例も認めた. これらの精巣腫瘍患者の妊孕力と血清抗精子抗体についても検討したが,抗体陽性で精液検査を施行した3例はすべて精液所見が正常,血清FSHは抗体陽性6例のうち3例で正常範囲であった.精巣腫瘍患者の治療後の妊孕力は,おもに化学療法などの治療内容に左右され,血清抗精子抗体(ELISA法)の有無には影響されていなかった. 以上のように,精巣胚細胞腫瘍症例における血清抗精子抗体は,精子不動化試験では全例陰性,ELISA法では25.5%と高率に抗体陽性であったが,陽性例は腫瘍組織像,臨床病期,治療経過,治療後妊孕力などに一定の傾向を認めず,精巣胚細胞腫瘍の腫瘍マ-カ-としての役割は期待しがたいものと考えられた.
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