研究概要 |
1.妊婦のHPV感染についての疫学的調査成績 (1)1986〜1987年にみられた伝染性紅斑の大流行は,若年者(5〜14歳)の抗体保有率を上昇させたが,生殖年齢女性にはほとんど影響を与えず,抗体保有率は22%と低率であった。 (2)上記の大流行時における妊婦の推定HPV感染率は4.4%であった。 したがって,今後約20年間での伝染性紅斑流行時には,妊婦がHPVに感染する率は5%程度と推定され,胎児障害の危険性は少なくないので,抜本的対策を早急に確立する必要があることが明らかとなった。 2.HPV胎内感染による胎児障害としての胎児水腫についての臨床的検討成績 (1)妊婦が不顕性のHPV感染であっても胎児水腫をおこしうる。 (2)妊娠11週から21週の期間に母体に感染症状がでた場合に危険が生ずる。いいかえると,妊娠8週以前と妊娠24週以後の発症症例では危険はない。 (3)妊婦に感染症状がでてから11週以内に胎児水腫が発症し,その後4週以内に子宮内胎児死亡となっている。 3.HPV DNA in situ hybridization(ISH)の開発とそれを用いたHPVの胎児障害性に関する検討成績 (1)胎児水腫症例の各種臓器についてISHを行った。検討したすべての組織中に存在する赤芽球の核にHPV DNA陽性所見を認めたが,心筋をはじめ臓器固有の細胞の核はすべて陰性であった。この成績から,HPVの感染標的細胞は赤芽球系幼若細胞に限定しており,胎児水腫の発症要因としてはHPVによる直接的な心筋障害は否定され,赤芽球系幼若細胞の感染・破壊にひき続いておこる重症貧血ならびに主要臓器の低酸素症とそれによる二次的心機能不全の複合が主因となることが示唆された。 (2)妊娠初期流産の原因としてのHPV感染の関与は証明できなかった。
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