研究概要 |
胎児発育の調節機構において成長因子の果たす役割りについては,最近の細胞生物学的研究により,次第に明らかにされてきたが,その分子機構については不明の点が少なくない。本研究は当初いくかの成長因子について検討する予定であったが,神経成長因子(NGF)に関してのみ検討した。これは,胎児発育の中でもとくに神経系の発育,分化に関する知見が乏しいからである。胎仔組織におけるNGFmRNAの検出はきわめて微量であったため,まず,すでに我々がNGFの存在を蛋白レベルで確認しているヒト胎盤を用いてNGFの遺伝子発現をみることとした。言うまでもなく,胎児の発育は胎盤の機能と不可分の関係にあり,胎児ー胎盤系として1つのユニットを構成しているから,胎盤における成長因子の分析も胎児発育の機能調節を明らかにする上で重要であると考えられる。 本研究の研究成果の概要は,まず,UllrichらによりcloningされたヒトβNGFcDNAの塩基配列を参考として,Northern blot用の36merのoligo DNA probeおよびRTーPCR (veverse transcviptaseーrolymerase chain reaction)に使用するセンスプライマ-20merと,アンチセンスプライマ-20merを合成した。次に,ヒト胎盤から抽出したRNAでNorthern hybridizationを行ったところ,1、3kb相当の位置に単一バンドを認め,ヒトNGFmRNAが検出された。また,RTーPCRでは,PCRを30cycle行なった結果,約500baseのバンドを認め,プライマ-のデザインから予測される結果と一致し,ヒト胎盤組織中にNGFmRNAが存在することが示された。胎盤性NGFが胎児神経系の発育,分化にどのように関与しているかは今後の課題として残っており,また,本研究は,微量のmRNAの検出を可能としたRTーPCRの方法論的基盤の確立をもたらしたので,さらに,胎児組織自身の成長因子の分子機構を解明しなければならない。
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