研究概要 |
本研究から、次の2点が明らかとなり、エナメル質の石灰化を考える上 で極めて貴重な結果が得られた。第一点は、成熟期エナメル芽細胞層とエナメル質と の境界面にみられる基底膜様構造 (以下"疑似膜"と呼ぶ) が4種のレクチン (BP A,MPA,PNA,WGA) に結合する複合糖質を含むこと、第二点は、疑似膜が 、免疫組織化学的に見て、ラミニンを含むとは考え難いことである。本研究の結果だ けで、ラミニンの存在や内外のエナメル上皮に付随する基底膜、さらに、血管や筋組 織にみられる基底膜には、ラミニンを検出できたので、疑似膜には、ラミニンが存在 しないか、存在ても極めて少量であると考えられる。したがって、疑似膜を基底膜と 呼ぶことは、現時点では、ふさわしくないと考える。疑似膜へ結合するレクチンにつ いては、内外のエナメル上皮の基底膜に比べ、BPAの結合量が多く、ConAの結 合が極めて少量しか認められない点に特徴があった。結合するレクチンの種類と量か ら考えて、内エナメル上皮の基底膜は、外エナマル上皮や表皮の基底膜に比べ、複合 糖質を多量に含むと考えられる。疑似膜は、内エナメル上皮に類似して複合糖質をや はり多量に含むが、複合糖質の種類に関しては、かなり相違すると思われる。したが って、ラミニンとレクチンを指標とした今回の結果は、疑似膜が、一般に知られてい る基底膜に比べ極めて異質な構造物であり、エナメル質の石灰化の過程で出現する固 有の構造であることを示唆している。なお、本研究の結果は、ラットとマウスの切歯 歯胚に関するものである。また疑似膜へのレクチンの結合は、エナメル質の石灰化が 進むにつれ徐々に減少した。〔略号説明〕BPA:モクワンジュマメレクチン、Co nA:コンカナバリンA、MPA:オサゲオレジレクチン、PNA:ピーナッツレク チン、WGA:小麦胚芽レクチン。
|