申請者らは成猫の片側下顎歯の歯髄組織にHRPを投与後、急性歯髄炎の防止のために抗炎症剤のPrednisoloneを全身性に投与し続けたところ、投与側中脳路核(MTN)内に多数のHRP陽性細胞を見い出した。この結果からネコの歯髄は同側のMTNニューロンの支配を受けていることが判明した。しかし、歯髄組織に投与したHRPが根尖孔外に漏洩して歯根膜の神経から取り込まれ、MTN一次ニューロン細胞体に輸送されたのではないか、という疑問が提議された。そこで本研究においては、ネコのMTNでは歯髄支配ニューロンと歯根膜支配ニューロンとはほぼ同部位に存在するという我々の解剖学的所見に基づいて、電気生理学的に同定したMTN歯根膜支配ニューロンの付近にWGAーHRPを微量注入し、MTN歯髄支配ニューロンに取り込ませた後、順行性に輸送されたトレーサーを同側歯髄内の軸索終末で検出する方法によって歯髄支配のMTN一次ニューロンの証明を試みた。実験には神経組織からのHRPの取り込みが良い幼弱猫6頭を用いた。麻酔を施した動物を脳定位固定装置につけ、0.1M Tris bufferまたは5%polyacrylamide gelに溶解の2ー3%WGAーHRPを充填したガラス管微小電極でP1.5〜P3.0付近のMTNから歯根膜機械的受容ニューロンを記録した。記録部位に電極内のWGAーHRPを電気泳動的またはガス圧により注入後、動物を24時間生存させた。深麻酔下に心灌流固定を施した後、注入側上下歯を抜去し、硬組織をエアータービンで注水下に切り開いて歯髄組織を摘出した。歯髄組織の連続凍結切片を作製し、TMB反応を施した後、暗視野顕微鏡でHRP陽性軸索終末を探索した。3頭のMTNのWGAーHRP注入部位はφ100〜150μmのHRP反応陽性斑点とした検出された。二叉神経節には陽性細胞は見当らなかった。歯髄組織には投与側のみならず、対照側においても茶褐色のHRP反応陽性神経線維が認められた。結論としてWGAーHRPよりも微量で検出可能なPHAL等のレクチンをトレーサーに用いるべきである。
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