研究概要 |
リノ-ル酸やα-リノレン酸等のシス型多価不飽和脂肪酸は、ADP等の刺激に伴なって生じる細胞内Ca2^+濃度上昇を抑制することによって血小板の凝集を阻害する。そこで細胞内Ca^<2+>の調節物質の一つであるサイクリックAMPの濃度に及ぼすシス型多価不飽和脂肪酸の影響をテオフィリンの存在下で観察した。その結果、これらの脂肪酸は凝集阻害作用と呼応して、サイクリックAMP濃度を増大させることがわった。すなわち、血小板凝集をほぼ阻害する濃度で脂肪酸はサイクリックAMP濃度を正常値に比べて、1.6〜1.8倍に増加した。飽和脂肪酸は影響を及ぼさなかった。一方、他のCa^<2+>調節物質であるイノシト-ルリん脂質代謝物のイノシト-ル-1,4,5-三りん酸(IP_3)の刺激に伴なう産生に対してシス型多価不飽和脂肪酸は影響を及ぼさないことがわかった。さらに、これらの脂肪酸の血小板に対する作用はアラキドン酸代謝の修飾にはよらないことも結論された。サイクリックAMPの産生を行なうアデニル酸シクラ-ゼは細胞膜の流動性に鋭敏な酵素として知られている。蛍光プロ-ブ、ジフェニルヘキサトリエン(DPH)による観察はシス型多価不飽和脂肪酸による血小板膜の流動性増大とサイクリックAMP濃度の増加との相関性を示した。またDPHのトリメチルアンモニウム誘導体TMA-DPHによる観察はこれらの脂肪酸によって流動性の増大が膜の広範囲で生じていることを示した。以上の結果、シス型多価不飽和脂肪酸による血小板機能阻害は、膜の流動性の増大に伴なうアデニル酸シクラ-ゼ活性化によって生じていることが明らかになった。また血小板を活性化するアラキドン酸が高濃度では逆に凝集を抑制する作用やトランス型多価不飽和脂肪酸による凝集阻害作用も同様な機構で生じていることが推定された。
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