研究概要 |
低スピンFe(III)ヘム錯体の凍結溶液のESRスペクトルにおいて^<57>Fe(1=1/2)による超微細(hf)分裂を観測すると、ヘム座標系に対する斜方対称場主軸の回転配向角度(φ),gおよびhfテンソル主軸の回転配向角度(φ_g,φ_A)などを決定できる。これら主軸系の角度配向は主として軸配位子のz軸まわりの回転配向に起因するので、斜方対称場の配向角度(φ)と軸配位子の配向角度(φ_l)との関係を低対称性(C_2)結晶場モデルを基に算出し、一系列のチオラト軸配位の低スピン(Fe(TPP)L_1L_2錯体(TPP=テトラフェニルボルフィン、L_1=RS^-、R=Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、s-Bu、t-Bu、L_2=MeOH、DMF、RSH)における軸配位子面(Fe-C-S面)の配向角度(φ_l)を決定した。φ_lは、第6配位子(L_2)や溶媒系(CH_2Cl_2-MeOH、DMF-MeOH、CH_2Cl_2-RSH)に依存して、6°から37°の範囲に求められたが、RS^-におけるアルキル基との関係は明確でない(ただし、L_2=MeOHのとき、φ_lは直鎖型Rの場合には小さく、分岐型Rの場合には大きい)。しかし、φ_lはt_2軌道のエネルギ-分裂とはよく相関する。一般に、正方対称分裂が小さく、斜方対称分裂または結晶場の斜方性度が大きいとき、φ_lは大きな値をもつ。このことは、軸配位子の配向角度が電子的効果と立体的効果の二つの要因によって決められていることを示唆する。φ_lが小さいときは電子的効果が、φ_lが大きいときは立体的効果が、それぞれ優先的に効いていると考えられる。L_2=MeOHのとき、直鎖型Rは前者の場合に、分岐型Rは後者の場合に相当する。
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