過酸化脂質の細胞毒性発現機構を生体膜レベルで明らかにすることを目的とし、小腸刷子縁膜の動的構造に対する脂質過酸化の影響を蛍光ラベル法で調べた。膜脂質流動性については既に詳細に解析したので特に本年度は膜タンパク構造を対象にして調べた。(1)蛍光性マレイミド試薬と膜タンパクSH基の反応性を指標にして解析した結果、脂質過酸化の程度に依存したSH基近傍構造の変化が明らかにされたと共にこの変化には脂質過酸化反応、最終産物であるマロンアルデヒドと膜タンパクアミノ基との反応の関与している可能性が示唆された。(2)膜タンパク構造の変化は更に蛍光標識した膜標品の蛍光異方性、寿命、消光速度などの解析からも証明され過酸化脂質生成による膜タンパク構造rigidityの増加が明らかにされた。今後は更に膜流動性とこのような膜タンパク構造の変化の相関性につき定量的に明らかにすることが脂質過酸化による膜動的構造変化の機構解明に重要であり現在、進行中である。(3)本膜標品の脂質過酸化は膜動的構造のみならず膜表面荷電の著しい変化を誘起させることが蛍光消光実験から明らかにされた(日本薬学会北陸支部第74回例会発表、1988年)。膜表面荷電は生体膜の機能と密接に関係していることから、このことは脂質過酸化の細胞機能傷害の発現機構の解明に重要な情報を与えていると思われ、膜動的構造変化との関係につき検討を行っている。(4)生体内抗酸化物質の検索に関する研究の一環として本年度はビタミンK及びその誘導体の影響につき、リン脂質リポソームを用いて調べた。その結果K_1K_2及びユビキノン(Q_<10>)には抗酸化作用が認められたが、K_3は効果のないことがわかった。また、これらの抗酸化作用にはイソプレテレノイド側鎖の存在が大きく関係しており、脂質層に埋め込まれた状態でのみ抗酸化作用を発現することが明らかにされた。
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