遺伝性高胎児血色素症(HPFH)は成人になっても胎児型ヘモグロビン(HbF)を合成し続けるが機能的には異常性を認め難い。ところが、重篤型のβサラセミアとか鎌型赤血球貧血症の様に成人型グロビン鎮のβ鎖の異常による症状は胎児型グロビン鎖のγ鎖の存在により大きく軽減されることがわかっている為、これらの患者に対しては異常なβ鎖のかわりにγ鎖を合成する遺伝子治療が要求されている。また、哺乳類の細胞分化における遺伝子の転換気候という重要な研究課題にとっても、HPFHの異常性は貴重な研究モデルと考えられる。HPFHは機能的にほぼ正常なので一般健康集団にも存在するものと考え、その頻度、種類、遺伝様式および分子レベルでの機構を調べるのが本研究課題である。愛知県の集団では約0.12%にHbF高値(1.8-11%)を認めた。このうち約30%の者は低いHbA_2値(0-1.3%)を示しδサラセミア因子保因者の存在か考えられ、HPFHとδサラセミアの分子レベルでの関連性が今後の一つの研究課題となった。βグロビン遺伝子群のハプロタイプによると7-11%のHbF値を示す者はIII、IVあるいはIXの何れかの染色体をもち、δグロビン遺伝子より上流のサブハプロタイプは全て〔-++-++〕のホモ接合型であった。また、Gγグロビン遺伝子のcap部位上流158bp(XmnI)部位は〔+/+〕で示され、Gγ値は60-85%と高値であった。これに対して日本人に圧倒的に多いサブハプロタイプ〔+-----〕のホモ接合体ではHbF値もGγ値も高値を示すことがなく、Gγグロビン鎖合成の調節はハプロタイプに関連していることがわかった。また家系調査の可能であった一例では発端者のみに約3%のHbF高値とDNA上の変異が認められた。現在、γグロビン遺伝子上流のプロモーター部位、メチル化部位、DNaseI感受性部位などでのDNA上の変異を検索するとともに、HbF高値の遺伝性について家系調査を続けている。
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