研究概要 |
初年度にPCRを用いた直接クロ-ニング法、並びにビオチン標識オリゴヌクレオチド・プロ-ブを用いた簡単な塩基配列異常の同定法が開発された。その方法を用いて、2、3年度は日本人のβサラセミア39家系の遺伝子分析を行った(うち、一例は韓国人のβサラセミア)。その結果は以下の通りである。(1)ー31capA→G,3家系(2)開始コドンATG→ATG,3家系(3)開始コドンATG→AGG,1家系(韓国人)(4)コドン24 GGT→GGA,1家系(5)コドン26 GAG→AAG(Hb E),1家系(6)IVSーIー130,G→C,1家系(7)コドン41ー42 TTCTTT→TT,7家系(8)コドン90 GAG→TAG,8家系(9)IVSーIIー1 G→A,1家系(10)IVSーIIー654 C→T,2家系(11)IVSーIIー848,1家系,(12)コドン110 CTG→CCG,2家系(13)コドン121 GAA→TAA,2家系(14)コドン127ー128 CAGGCT→CCT,4家系。合計14種類のβサラセミアが発見された。現在、全世界で70ー80種類の遺伝子異常の異なるβサラセミアが報告されており、その20%が日本人で発見されたことになる。βサラセミアが少ない日本人でこれほどの同定が可能であったのはPCRという新しい技術をもとに考案された直接クロ-ニング法、そしてビオチン標識オリゴ・プロ-ブの開発によりところが大きい。このようにして比較的短期間に日本人βサラセミアの遺伝子異常のスペクトラムが明らかになった。このうち、6種類が日本人のみにしか認められない型のβサラセミアであり、生じたサラセミア変異は選択も除外もされず“中性"であると考えられた。一方、中国人にも存在する型が5種類あり、日本人の人類遺伝学的意味で興味が持たれる。 この他に直接クロ-ニング法の評価、他の先天代謝異常症としてのαサラセミア3家系の遺伝子異常(サザン・ブロット法による)、高度不安定血色素症であるHb Hirosakiの遺伝子異常を明らかにした。
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