研究概要 |
一般のPC12細胞と異なり、NGFだけでなくcAMP上昇薬によってもneuriteを伸ばし、しかもその反応が著しく速い亜株、PC12Dを樹立し発表した。(J.Neurosci,Res,17:36-44,'87)。この細胞を用いて以下の研究結果を得た。 1.MAP1,MAP2に対する抗体による免疫螢光観察によって、MAP1は細胞質、neuriteとバリコシティー、growth coneに局在し、MAP2は特に細胞核周辺に局在した。NGFやcAMP上昇薬による細胞分化に伴って、いずれも顕著な螢光の増加が認められた。MAP1の燐酸化部位を認識する抗体では、特にgrowth coneへの局在が見られ、突起伸張制御との関連が示唆された。 2.MAP1,MAP2抗体を用いたWestern blotting法により、PC12細胞の分化に伴うこれらの蛋白質の量的変化を調べたところ、PC12D細胞ではNGFだけでなく、cAMPによっても増加する事が観察されたが、通常のPC12細胞の場合、cAMPでは変化せず、neuriteの成長と完全な一致が見られた。またPC12D細胞は未処理でも、MAP1の量がPC12細胞より多く、NGF、cAMPに反応しより敏速にneuriteを伸ばす原因である可能性が推測された。 3.ウシ脳より調整した微小管蛋白質を基質として、〔^<32>P〕ATPを使って、NGFまたはcAMPで数分間処理した細胞抽出液における蛋白質燐酸化活性を調べた、いずれの場合も、MAP2を燐酸化する活性が、3〜8倍に上昇する事実を認めた。一方はA-キナーゼであったが、もう一方はこれまでに報告されていない酵素である可能性が高く、今後追究したい。 4.PC12D細胞は、NGFによる形態分化の誘導が著しく早く、この特徴は、NGFの生物活性測定に有効と思われ検討したところ、大変利用価値があることが示された。発表後、諸外国および国内の研究者より、PC12D細胞の分与依頼が相次ぎ、既に20以上の他の研究室で使用されつつある。
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