今まで、X線誘発による潜在致死損傷(PLD)の修復は2種類あることが知られていた。我々は、従来使われてきた高張液(0.5M NaCl、20ー30分処理)と、それよりもうすい高張液(0.225M NaCl、3ー4時間処理;0.16M NaCl、16時間処理)で処理することによって、対数増殖期細胞では高張液処理によって3種類の回復時間が異るPLDが発現されることを明らかにした。0.5M NaClで発現されるPLDは、定常期細胞でも同じように発現され、従来Utsumi and Elkindによって研究されてきたはやい修復をうけるものと同一であると考えられる。一方、うすい濃度(0.255M)での定常期細胞の処理は、増感作用を示さないが、定常期細胞でみられる遅いPLD修復は抑制している。また、修復時間が同じなので0.225Mで発現されるPLDの修復は、従来の遅い修復と同じであると考えている。0.16Mは、定常期細胞では、増感もしないし遅いPLD修復を完全には抑制しない。既知のPLDと違うと考えている。 PLDとSLD(亜致死損傷)とは同じものではないかという議論がある。分割照射の間に高張液を処理するといずれの場合でも分割照射によって観察される亜致死損傷(SLD)の修復は抑制されるが、分割照射間の高張液処理の後、正常培地に5時間置くと生存率は増加し、修復が起きていることがわかった。抑制は一時的なもので、損傷の固定といった不可逆的なものではなく、PLDとSLDとは少くともある部分は独立していることを示す。 今まで、高張液はMEMにNaClを加えることによって得ていた。最近血清を10%含む正常の培地を高張にした場合、特に長時間処理では非照射細胞に対する毒性が著しく軽減されるが、今までの高張液と同程度PLDを発現させることがわかった。今後のPLD機構解明、および、がん治療への応用のために有効であると思われる。
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