研究概要 |
放射線によって誘発された異常発生の機構解明の目的で心臓などの異常発生の感受期に相当する妊娠8日目のラット母体に0.8〜2.0Gyの中性子線(cf-252)及びコバルトガンマ線(Co-60)を照射して経時的に胎仔又は胎仔心を摘出し顕微解剖を行ない特に照射后の急性期の症状(細胞壊死など)が消退し修復した后の、照射后5日頃から(胎令13日に相当)増加してくる分子量7万の熱ショック蛋白(以下hsp70)及びプロトオンコジンC-fos,C-mycについて調べ次の様な結果が得られた。(1)^<35>Sメチオニンを含むEagle溶液で培養后hsp70を二次元電気泳動で同定し^<32>PでラベルしたDNAプローブとノーザンハイブリダイゼーションを行ってhsp70を確認した。hsp70は被曝による障害の多い胎仔で対照である非被曝の胎仔に比べてかなり増加している。 (2)C-fos,C-mycプロトオンコジンはtotal RNAを抽出して、同様にDNAプローブとkybridizationを行った。C-myc はhsp70と同調して被曝例で対照に比べて3-4倍増幅していた。 (3)C-fosはin vivo(0時間培養)では被曝例や対照でも認められないが (4)C-fosはin vitro(30分培養)でかなり増幅していた。これらの所見は被曝後の障害の多い高線量被曝の異常胎仔でより強い傾向を示したが形態的に異常のみられない胎仔にも認められ外見は正常でも被曝した胎仔には分子レベルの異常、即ち蛋白合成や転写レベルの異常が内在することが示唆された。現在、プロトオンコジンと異常発生の関係は明らかではないがhsp70の出現は正常な他の蛋白合成を抑制すること等から上記の所見は被曝胎仔の細胞の分化、増殖の何らかの異常を示すものと考えられる。今後、hsp70やその他のプロトオンコジン等の経時的消長や局在性についての検討が必要と思われる。
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