筋収縮時の分子構造変化の中心的な場所として、ミオシン頭部のドメイン(27K、50K、20K)の相対的位置の変化が重要になってきた。エキサイマーはこの種の動きを調べるのに大へん有力な方法である。なぜならばエキサイマーは二つの蛍光色素間の相互作用によって生じるため、二つのドメイン間に出来たエキサイマーを見れば、それらの間の相対的位置変化を知ることができるからである。今回の実験に於いては、蛍光色素PIAをミオシンの頭部であるSlに結合させ、ラべルに伴うエキサイマーの発現とATPaseの活性の変化を調べた。比較の為にエキサイマーを生じる蛍光色素として広く知られているPMIもラべルしてみた。大変興味深いことにPIAはエキサイマーを生じるが、PMIはそれをほとんど生じない。この原因の一つにはラべルされるシスティンの主鎖上の場所が、両者の間で異っていることが考えられる。事実ラべルに伴うCa-ATPaseの時間変化を見ると、PMIではSHlのラべルによる活性の促進が見られるが、PIAでは最初活性の抑制が見られ、それからSHlのラべルによる活性の弱い回復がゆっくりと現われる。この時初めに得られたエキサイマーがゆっくりと減少していく。Slをトリプシン分解してゲル上の蛍光を調べると、20Kと50Kのフラグメントが蛍光を示す。従ってエキサイマーは20Kと50Kの夫々のドメイン上の色素間で作られている。このようなPIA-Sl分子を加圧したり温度を変えてエキサイマーを調べると、ドメイン間の相互作用の様子が明らかになってくる。20℃近辺でSlのドメイン間にその相互作用の急激な変化が現われることが明らかになってきた。この変化がATPase活性の変化とどう結びつくのかが今後の課題である。
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