本研究は、申請者がこれまでの研究で見出した金属アルコキシドの溶媒中での配位と部分加水分解の制御によって化学量論性LiNbO_3の合成が可能であるとの結果を基にして、シリコンとサファイアの基板を用い、金属アルコキシドコーティング溶液の濃度及び基板の引き上げ速度とLiNbO_3生成膜の膜厚との関係、基板結晶の結晶系及び結晶学的方位と生成膜の結晶性との関係を調べ、さらにLiNbO_3膜の結晶化過程に及ぼす雰囲気の影響を検討することを目的としている。 LiOEtとNb(OEt)_5をモル比1:1となるように脱水精製したエタノールに混合溶解し、還流反応を22時間以上行うことによってダブルアルコキシドを合成した。ダブルアルコキシドを部分加水分解した溶液を所定の濃度に濃縮してコーテング用溶液とした。この溶液に予め洗浄乾燥した基板結晶を浸漬し、所定の速度で引き上げることによって成膜した。 成膜後の膜はアモルファスであったが、250℃以上での加熱によって結晶化した。この結晶化には、温度調節が低温結晶化に有効であることがわかった。溶液の濃度及び基板の引き上げ速度と結晶化膜の膜厚には強い関係があり、膜厚は溶液濃度にともなって直線的に変化し、引き上げ速度と膜厚の両対数は直線関係にあり、直線の傾きは1/2であることが明らかになった。この関係から、機能性LiNbO_3膜の膜厚制御が十分可能であることが分かった。基板の結晶系は、成膜したLiNbO_3膜の配向結晶化に強く影響し、シリコン上での結晶化膜は配向性を示さなかったが、LiNbO_3と同様の原子の充填構造をもつサファイア基板上には、基板のどの方位にも選択的に配向結晶化することが分かった。サファイア基板上に結晶化したLiNbO_3膜の屈折率は2.3以上の高い値であった。 今後は、LiNbO_3-LiTaO_3固溶体配向膜の合成と固溶体膜の誘電特性について検討する計画である。
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