研究概要 |
研究の目的: 海洋表層から深層への物質循環に対する微粒子の関与と深海底における〔海水・底質・間隙水の関連〕とを重金属・Ag,Cd,Cu,Ni,Pb,Tl,Znの濃度とPbの同位体存在比とによって解明することを目的とする。 昭和63年度の研究実績: 太平洋全海域についての研究の一環として、北太平洋、日本海、東支那海において採取の試料と、日本海溝における試料について特に精密な研究を実施した。前年度までの成果と併せて次の知見をえた。 1.重金属の海洋表層濃度はPPTレベルにあるが、海域差がある。日本列島周辺、大陸近海で高濃度で中部太平洋で低い傾向がある。Ag,Cd,Cu,Ni,Znはプランクトンや粒子に吸収され、深層に沈降して、嫌気性環境下で遊離される。したがって表層に比較し数十倍の高濃度にある。Tlは表層と深層とに差異がないのは表層におけるプランクトンと粒子中の濃度が低いためである。Pbの表層に濃く深層に薄いという特異の態様を示す。 2.Pbの同位体存在比は太平洋の海域によって相違が表面層にあることが明瞭となった。日本海溝における精密な深度との関連についての研究は次のことを示した。たとえばPbの同位体比、207/206は表面層では0.8544であるが、深度とともに、またPb濃度の減少とともに漸減し、海底では0.8354となる。底質は深度603cmまで0.839±0.001である。深層約2000mにおいてPbの濃度と同位体比に明瞭な偏曲点が存在するが、このことは大気中エーロゾル(人為源)のフォールアウトの影響がこの深度に及んだことを示している。日本海溝底における堆積環境・条件は過去数十ないし数百万年の間、比較的平静であったと考えられる。ロイヒでは激動的であった既報。
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