海洋における物資循環、特に生物活動と密接に関連した親生物元素循環を考える時に、これらの物資の形状、例えば溶存態物資であるか粒子懸濁態物資であるかの違いはきわめて重要である。我々は最近、海洋表層に、粒径が0.5ミクロン以下のバクテリアサイズの微小懸濁粒子が海水1ml当り約10^7ヶ存在することをサブミクロンサイズの粒子計数が可能なエルゾーン粒子カウンターにより見い出した。本研究ではこの海洋中の微小懸濁粒子の特性を明らかにする為に、外洋域沿岸域において解析実験を行なった。まずこの微小懸濁粒子の成因についての手がかりを得る為に、北部北太平洋3測点での表層200mでの微細粒子の数と他の生物関連粒子との相関を調べた。微小粒子数は、粒状有機炭素、クロロフィル、細菌数と正の相関をもち中でも微細数との相関が高かった。(r=0.77)しかし細菌数の約30倍の微小粒子が存在し、このことは海洋中のサブミクロンサイズの粒子のほとんどは非生物粒子であること、又これらの非生物微小粒子は、生物起源であることを示唆している。次にこの微小懸濁態粒子の物理的性状を明らかにする為、サブミクロンサイズでもっとも多い生物粒子である細菌を対照として、各種フィルターによる分別や超音波処理の効果等の検討を行なった。その結果同じ位のサイズの細菌に比べて非生物粒子はよりフレキシブルであり、そのかなりの部分が0.1ミクロンのフィルターを通過すること又、超音波処理や超遠心の結果からこれらの粒子は物理的にこわれやすい含水量の高い粒子であることが推測された。電子顕微鏡による観察ではこれらの粒子はアモルファスなデトリタスとして捉えられるがこの形状については、脱塩・脱水処理を行なわなくてはならず今後の検討が必要である。さらに今後この微小非生物懸濁粒子の化学的性質について解析をすすめることにより、その成因や海洋での動態についての手がかりをつかむ必要がある。
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