研究概要 |
エンレイソウ(Trillium)属植物は、太平洋をはさんで東アジアと北アメリカに分布し、染色体が大きく数が少い(2n=10)ので、従来細胞遺伝学における好個の研究材料として用いられてきた。Derlington and LaCour(1940)の低温処理-フオイルゲン反応による染色体のバンデイング法を用いて、日本の、T.Kamtschaticum,北アメリカのT.ovatum,T.grndiflorum,T.erectumについて集団分析を行ったところ、進化過程の新しい種(T.ovatum)が最も変異に富み、逆に古い種(T.erectum)が最も変異が少いことが明らかにされてきた。また、日本のT.Kamtschaticumと北アメリカのT.erectumの染色体バンデイクグには共通性があり、さらにアメリカ東部のT.grandiflorumと西部のT.ovatumに共通性があることが判明した。 本年度このような染色体変異の特徴をもつ日本とアメリカのエンレイソウについて、ポリアクリルアミド・ゲルにおけるエステラーゼの電気泳動による実験を行ったところ、1)染色体異変とアロザイムの分子レベルの変異は平行していない、2)日本T.Kamtschaticumと北アメリカのT.erectumは染色体レベルだけでなく、エステラーゼのバンデイグに共通性が認められるという結果が得られた。 この結果から、1)染色体レベルの変異と遺伝子レベルの変異は、根本的に異なる遺伝的機構に支配されている、2)日本のエンレイソウの起源は北アメリカのエンレイソウに由来するということが指摘できる。さらに、染色体バンデイングの発生機構に関して、第一段階としてDNAが合成される間に、遺伝子レベルでの突然変異、遺伝的浮動による固定(木村の中立説)が働き、第二段階としてDNA合成後にヒストン、非ヒストンタンパク質などのヘテロクロマチンによる染色体のリパターン化が進行し、ここで選択作用を受けて種によって異なる染色体変異を示していると考察されるが、さらに実験を続行し資料を蓄積していきたい。
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