本研究ではヒトの骨格筋の形態及び機能的特性に及ぼす加齢の影響を明らかにするために30歳から66歳までの健康な中高年者男子53名と女子56名の計109名を対象として、体肢の骨格筋の横断面積と等尺性随意最大筋力及び神経筋活動について検討した。 筋の横断面積の測定は超音波法(ALOKA製、SSD120型、円形コンパウンド方式)を用いて、大腿及び上腕について行った。等尺性随意最大筋力はストレンゲージ法を用いて特別に作成した総合筋力測定装置(竹井機器製)により膝関節及び肘関節の屈曲と伸展について測定し、最大筋力発揮時における神経筋活動は表面電極法を用いて肘関節屈曲時の上腕二頭筋、上腕筋及び腕橈骨筋の各筋の筋電図積分値比率から検討した。 その結果、次の様なことが明らかになった。 大腿の筋横断面積の値は30歳代と40歳代でほぼ同様であったが50歳代ではわずかに低く、60歳代では有意に低い値を示す傾向が男女とも認められた。上腕の筋断面積についても大腿とほぼ同様な傾向が男女ともみられたが各年齢群間の有意な差異は認められなかった。また、各年代とも両部位の筋断面積は男子の方が女子よりも有意に高い値を示した。 等尺性随意最大筋力は筋断面積と同様に、高齢になるにしたがって著しく低下する傾向が認められた。その傾向は膝関節屈曲及び肘関節伸展時においてより顕著であった。筋の単位断面積当りの筋力の各年齢群間及び男女間において有意な差異はみられなかった。しかし、その値の個人差は高齢者群ほど大きくなる傾向を示した。 肘関節屈曲に関与している各筋の筋電図積分値比率は男女とも30歳代と60歳代では有意に異なる傾向が認められた。 これらのことから高齢者における筋力の低下は筋の形態的要因と神経筋的要因の両者によるものであることが示唆された。
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