研究概要 |
昭和63年度はNi(〜2.5%),Mn(〜0.8%)含有低合金球状黒鉛鋳鉄を基礎材料とし,その最適な溶製・製造・熱処理条件を各種の試験(静的引張試験,計装化シャルピ-衝撃試験,静的及び動的破壊靭性試験)結果より評価・確定した。また機械的性質に及ぼすミクロ組織,特に炭化物等の変態析出組織の影響を明確にするため,TEM(透過型電子顕微鏡)によるミクロ組織観察を行った結果,オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄ではχ炭化物等の遷移炭化物が析出すること及びオ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄の靭性劣化の原因はFe_3C等の炭化物の析出より,二次黒鉛の析出による影響が大きい等の重要な知見を得ることができた。平成元年度は前年度に確定した溶製・製造・熱処理条件によって作成した強靭オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄を疲労き裂伝播試験した結果,従来のオ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄に比べて下限界応力拡大係数範囲ΔKth値が約45%増加し,パリス領域のき裂進展抵抗も著しく向上しており,疲労き裂発生及び伝播の両方に対して優れていることがわかった。更にその理由が,残留オ-ステナイトの応力誘起変態によるき裂生成エネルギ-の上昇及びそれに伴う破面粗さ誘起き裂閉口挙動に起因していることを明らかにした。また強靭オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄で歯車を作製し,プラッキング試験(耐久性試験)及び騒音測定試験を行った結果,現行品(SCM材製)に比べ,優れた耐久性(約25%増加)と低騒音化(約13%減)が認められた。平成2年度は,本強靭オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄歯車及び現行品(SCM材製)を電動機用減速機に組み込み,電動機の始動ー制動を1サイクルとした実機耐久性試験を行い,減速機が使用不可能となるまでの回数及び歯面摩耗について測定を行った。その結果,減速機が使用不可能となるまでの回数は現行品(SCM材製)と遜色はなく,また歯面摩耗も10μmで,現行品(SCM材製)とほぼ同程度の耐久性があること,更に歯切後に熱処理を行うという製造工程により耐久性が損なわれないこと等を確認することができた。これらの結果より,本強靭オ-ステンパ-球状黒鉛鋳鉄を歯車構成材として実用化できるとの確信を得ることができた。
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