研究概要 |
栽培が難しく,また収穫までに長期間を要するため,非常に高価な生薬である薬用人参の主成分であるサポニンの効率的な生産を試みるために,バクテリアのプラスミドを導入して毛状根の分離に成功した。この毛状根は従来の植物ホルモンや培養条件の調節で分離された培養根に比べても,2倍以上のサポニン高生産性を示す優れた能力をもっていた。さらに,そのサポニンは質的にも,原植物のサポニンに非常に類似した優れたものであることが明かとされた。そこで毛状根をバイオリアクタ-に用いて,サポニンの連続生産を試みた結果,DMSOによる膜透過処理により6週間にわたる長期間のサポニンの連続生産に成功した。この研究結果は細胞内に蓄積された成分を膜の透過処理により遊離し,連続的に生産させる試みで,その際に通常の培養細胞,即ちカルスを用いるよりも毛状根を用いる利点を示した研究として注目に値する。 さらに,毛状根を用いて,原植物には含まれていない外来の化合物をより有用な物質に変換するため,一例としてPPA(2-Phenylpropionic acid)に対する配糖化反応にも注目し,バイオリアクタ-への応用も試みた。そして,2ヵ月の長期にわたる連続配糖化反応にも成功した。これは植物の組織培養による有用物質生産研究の将来の一つの大きな方向を示した例であると言えよう。 また,薬用人参細胞へのバクテリアの遺伝子導入(Riプラスミド)の成功により,その他の有用な外来の遺伝子導入により,さらに新しい能力を持った細胞の育成の可能性も示されたわけで,今後はこうした方向の研究にも弾みがつくであろう。実際に,我々の研究室においても外来遺伝子導入の研究を展開中である。 この研究の成果が他の重要な植物,あるいは植物成分の生産に関する研究に対して一つの大きな指標となることを期待している。
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