研究実績の概要 |
本年度は昨年度に実施した条件(1GPa)よりもさらに高圧下で、かつ全希ガス元素(He, Ne, Ar, Kr, Xe)について、溶融鉄-ケイ酸塩メルト間の分配係数を求めることを試みた。 まず希ガスを実験系内に導入するために、玄武岩粉末を数MPaの希ガスとともに金-パラジウムカプセルに封入し、約300MPa、1,600Kに加圧昇温した後に急冷することで、希ガス入り玄武岩ガラスを得た。 このガラスと金属鉄を出発物質として希ガス分配実験を行った。まず出発物質をダイアモンドアンビルセルに入れ、10-70GPaの範囲で加圧し、レーザー加熱により3,300K付近まで昇温して融解させた。溶融したケイ酸塩の30μm程度の領域から、顕微レーザーアブレーション装置を用いて希ガスを抽出し、前年度に改良した希ガス質量分析計を用いて定量した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて、希ガスを抽出したレーザーピットの体積を測定し希ガス濃度を求めたところ、He以外の希ガスについてはおおむね目的としていた濃度で含まれていることが確認できた。一方He濃度は想定よりも数桁低く、昇温時に試料室から外部へ拡散して失われたと考えられる。また得られた金属鉄は直径20μm程度と、当初の目論見よりも小さく、希ガス濃度の測定が極めて難しいと見込まれたため、より大きな試料が得られるマルチアンビルセルを用いた実験を行った。8GPa、2,200Kにおける希ガスの分配係数(金属相中の濃度/ケイ酸塩相中の濃度)は1/1000程度であり、先行研究の結果(Matsuda et al., Science 1993)とは矛盾しない。本研究により、希ガスを導入した系で高温高圧実験を行うルーチンはほぼ確立されたため、今後は圧力と温度を様々に変えて試料を量産し、溶融鉄-ケイ酸塩メルト間の希ガス分配係数の温度圧力依存性を明らかにしていく必要がある。
|