公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
記憶ダイナミズムは、脳における神経細胞の集団的活動によりもたらされている。この集団的活動の基盤には、個々の神経細胞がつくる複雑なネットワークの性質が関与することが示唆されている。しかし、個々の神経細胞のつくる局所回路の性質を明らかにした例は殆どない。本研究では、神経細胞で異なる組み合わせ発現をするクラスター型プロトカドヘリン遺伝子群に注目し、神経回路の構築と機能形成メカニズムの解析を行った。本年度は、対立遺伝子間でのCre/loxP組み換えを利用してα、β、γ遺伝子クラスターを様々な組み合わせで欠損させたマウス(Δα, Δβ, Δγ, Δαβ, Δβγ, and Δαβγ)を作製し、脊髄における神経細胞死がΔα、Δβ、Δαβマウスでも低い頻度で起こっていること、嗅神経投射異常がΔα、Δβ、Δγで同様に認められること、脊髄や脳幹における神経細胞死がΔγ単独に較べ、Δβγ、Δαβγで頻度が高くなることを明らかにした。また、全てのクラスター型プロトカドヘリンを欠損させたΔαβγマウスでは、脳幹網様体や脊髄の介在ニューロンの神経細胞死、機能的神経回路異常、海馬神経細胞での自発的神経活動パターンの異常が認められたことから、クラスター型プロトカドヘリンが記憶ダイナミズムに関わるセルアセンブリに関する機能的神経回路形成に関わることを明らかにした。今後は、コンディショナルノックアウトマウス作製により、クラスター型プロトカドヘリンと記憶ダイナミズムとの関連性を明らかにする予定である。また、セロトニン神経で強い発現をしているaC2が、セロトニン神経軸索投射を制御していることを明らかにした。さらに、ヒストン修飾酵素であるSetdb1がクラスター型プロトカドヘリンのランダムな組み合わせ発現制御に関わっていることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
遺伝子欠損マウスにおける機能解析が順調に進行する中で、クラスター型プロトカドヘリンのaC2がセロトニン神経軸索当社で機能していること(Katori et al. Sci Rep 2017)、ヒストン修飾酵素であるSetdb1がクラスター型プロトカドヘリンのランダムな組み合わせ発現制御に関わっていること(Jiang et al Nature Genetics 2017)を明らかにし、論文として発表することができた。
クラスター型プロトカドヘリンのエピゲノムの変化が、自閉症、統合失調症、躁鬱病、ダウン症候群、パーキンソン病、自殺、幼少期の虐待、妊娠時におけるアルコールによる発達障害などで認められることが明らかとなってきており、今後は、クラスター型プロトカドヘリンのエピゲノムの変化と、発現制御、機能的神経回路形成への関与について明らかにしてゆきたい。
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Frontier Molecular Neuroscience
巻: 印刷中 ページ: 114-114
Stem Cells
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The Journal of Neuroscince
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Sci Rep.
巻: 7 号: 1 ページ: 15908-15908