公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
多くの哺乳類において、精細胞は体細胞より低い温度条件下で正常な分化及び増殖をすることが知られており、腹腔内に精巣が留まる停留精巣では、陰嚢内と比較し精巣温度が上昇するため、精子形成異常を示すと考えられているが、その詳細な仕組みは不明である。一方ゾウは停留精巣であるにも関わらず、正常な精子形成を示す特異的な動物である。昨年度までにゾウの精巣組織培養系を用い、人為的な熱ストレス存在下での熱ストレス関連蛋白質の発現検討を行い、ゾウ精巣では他の動物とは異なる仕組みにより精細胞が保護され、増殖と分化を誘導する可能性を示した。ゾウ精巣で人為的な熱ストレスにより一番はじめに誘導される物質はHSP90Aであるため、その阻害物質を熱ストレス下でゾウ精巣組織培養系に添加し、生殖細胞の増殖や分化状態の解析を行った。HSP90Aの阻害剤radicicol添加下で熱ストレスを与えた結果、ゾウ精巣では熱ストレス存在下で誘導される増殖と分化が阻害され、HSP60やATP5Aの上昇が阻害された。このことから、ゾウ精巣では、HSP90Aの下流にHSP60やATP5Aの発現調節機構があり、熱ストレスによる分化や増殖を調節していることが考えられる。一方、熱ストレス下でのHSF1の発現は、阻害剤存在下では阻害剤非存在下と比較し早く誘導され、TDAG51の発現誘導や細胞死の誘導も早まった。HSF1はHSP90A存在下では不活性化されていることから、HSP90Aの阻害剤によるHSF1の発現誘導、TDAG51の発現を経た細胞死の誘導は、熱ストレス下で、通常ゾウがHSP90Aの発現により、細胞死の誘導を間接的に抑制している可能性を示唆している。 人為的な熱ストレスを与えなくても、ゾウの精巣ではHSP90Aは精原細胞において強く発現していることと合わせて考えると、HSP90Aは、ゾウの精細胞の増殖、分化、細胞死を鍵分子として調節し、停留精巣での正常精子形成に寄与していることが示唆された。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Reprod Domest Anim
巻: 51 号: 6 ページ: 1039-1043
10.1111/rda.12766
Cryo Letters
巻: 37 ページ: 264-271