研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
17H05335
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
片山 竜二 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40343115)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2018年度)
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配分額 *注記 |
8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2018年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2017年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
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キーワード | 窒化物半導体 / エピタキシャル成長 / 非線形光学 / 第二高調波発生 / 光パラメトリック下方変換 / ウエハ接合 |
研究実績の概要 |
本研究では窒化物半導体の「極性反転」という特異構造の形成機構解明と形成技術確立ならびにこれを利用した波長変換による新規光源の開発を目的とする。深紫外帯域で発光するAlGaNは導電性制御が本質的に困難であり、高効率レーザは実現されておらず、単なる電流注入とは原理の異なる深紫外光の発生方法の開発が急務である。かたや情報分野においては、光を用いた量子計算機が提案されているが、依然として系が巨大で調整が困難なうえ安定性が乏しく、量子光源の小型化が求められる。上記背景を踏まえ本研究ではこの特異構造の更なる理解と制御技術の確立を行い積極活用することで、青色レーザ励起による深紫外第二高調波発生と量子もつれ光子対発生の実証を行う。これにより、結晶工学的な学術的知見の掘り下げや新規素子提案に加え、半導体微細加工・医療分野への応用や室温動作・高安定な光導波路型量子計算機の実用化などの各分野への貢献を目指す。 これまでの実績として、下記の進捗状況にて述べるように、(i)ウエハ接合による極性反転構造の作製と基板剥離による同構造の転写の成功、(ii)エピタキシャル成長による極性反転構造作製の検討、(iii)同構造の微視的構造特性評価、(iv)チャネル導波路型デバイス構造の再検討など、計画どおりの成果が得られた。特に(i)においては、接合圧力印加や高真空環境が不要な高温ウエハ対向アニール法という低コストで新規なウエハ接合手法の開発に成功し、加えて基板剥離による窒化物半導体薄膜の転写に世界で初めて成功しており、これらは本研究の目的である波長変換素子のみならず、これまでエピタキシャル成長では実現し得なかった、結晶方位や格子定数が大きく異なる層からなる新奇ヘテロ構造デバイスの開発に適用可能な技術であり、当初計画以上の成果が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)ウエハ接合極性反転 AlN薄膜はc面サファイア上にスパッタリング成膜し、GaN薄膜は有機金属気相成長したものを用い、極性を同一とする二枚の薄膜を対向させてウエハ活性化接合することで、極性反転スラブ構造の作製に成功した。更に、Si基板上GaN薄膜を接合後、化学エッチングによりSi基板を除去することで、サファイア基板上に露出したGaN/GaN極性反転構造を形成することに成功した。加えて、接合圧力印加や高真空環境が不要な高温ウエハ対向アニール法を用いたAlN/AlN極性反転構造の形成に成功した。またこれらの接合の可否に影響する表面平坦性とウエハ湾曲の諸条件について系統的な知見が得られた。 (2)エピタキシャル極性反転 本実験に用いるパルスレーザ堆積装置ならびに付帯設備を前所属の東北大学から移設・整備し、再立ち上げを完了した。また低温成膜に必須となる、高温熱処理による基板表面平坦化処理の設備の整備と条件出しを実施した。 (3)構造特性評価 上記極性反転構造の微視的構造特性を評価した。特に接合界面をエネルギ分散型X線分光ならびに電子線後方散乱回折により評価し、積層の乱れた中間層の形成や不純物偏析が認められないことを確認した。 (4)非線形光学特性評価 本研究では、積層方向に極性反転する横型疑似位相整合構造を用いる。その際、基本波基底モードと高調波高次モード間で速度整合し、高次モードの節にあたる層厚での極性反転により電磁界の重なりを最大化させる。実際に分光エリプソメトリにより評価した光学定数を用いて、深紫外第二高調波発生(SHG)に用いる素子構造を設計した。また位相整合許容幅の拡大を目指して、テーパ型チャネル導波路構造を検討し、位相整合波長幅が7倍に拡大することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度で得られた上記の成果をもとに、今年度は下記の項目を実施する。 (1)ウエハ接合極性反転 Si基板上GaNの接合と除去を用いて形成したGaN/GaN極性反転スラブ構造に対して、電子線描画および反応性イオンエッチングを用いて、チャネル導波路型波長変換素子を形成する。 (2)エピタキシャル極性反転 c面サファイア基板に低温窒化処理を施した後にパルスレーザ堆積し、-c面(Al, Ga)N薄膜を成膜する。-c面薄膜試料を表面酸化処理後、再成長を行う。その際酸化により形成したAl2O3表面を高温窒化処理し極性反転させる。 (3)構造特性評価 アルカリ水溶液によるエッチングを用いて、上記で形成したヘテロ構造において極性が反転していることを確認する。またより微視的な極性反転界面の構造完全性を評価するために、高分解透過型電子線回折を用いて分析を行い、極性反転機構を解明する。 (4)非線形光学特性評価 SHG・OPDC用として二通りの導波層厚のチャネル導波路型デバイスを作製する。試料切断と端面研磨後、波長可変パルスOPO光源からの光を入射端面に結合し、出射する高調波を同期検出する。このとき設計からのずれを想定し、基本波波長を掃引し位相整合条件を求める。この結果をもとに基本波450 nmにおいて位相整合する試料を再度作製し、深紫外SHGを実証する。上記SHGと同様に極性反転試料を作製し、逆過程である光パラメトリック下方変換(OPDC)を試みる。まずTM偏光励起により発生するTM偏光の二波を検出、続いてTE偏光励起により発生する直交偏光した二波を検出する。その際励起光波長を掃引し縮退OPDC条件を求める。さらに量子相関測定用の405 nmレーザ励起にて縮退OPDCが実現する層厚を正確に求め、再度デバイスを作製し、量子相関光子対発生の実証を目指す。
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