公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
健常な65歳以上の高齢者の10%に遺伝子変異を有するクローン性造血が存在することが最近報告され注目されている。クローン性造血で認められる遺伝子変異は造血器腫瘍に認められるDNMT3a、TET2、ASXL1などエピジェネティクスに関与する遺伝子に高い頻度で認められるが、多くの場合は遺伝子変異は1つである。クローン性造血を有する人は高率(1%/year)に白血病などの造血器腫瘍を発症するが、付加的な変異が加わった結果と考えられる。我々はクローン性造血とそこから白血病に進展する分子機序を研究するためにC末欠失型ASXL1変異体(ASXL1-MT)にストップカセットをつけてRosa26座にノックインしたマウスを作成し、Vav-Creマウスと掛け合わせることによって造血細胞でのみASXL1-MTを発現するASXL1-MT-KIマウスを作成した。このマウスは若い時にはほとんど症状はないが、1年を過ぎると大球性の軽度貧血、血球の軽度形態異常を認める。またASXL1-MT-KIマウスは複製可能なレトロウイルスで5ヶ月~1年で急性白血病を発症し、変異型Runx1の発現でもMDS/AMLを発症した。これらの結果はASXL1-MT-KIマウスが前MDSあるいは前白血病状態であることを示している。ASXL1-MT-KIマウスでは造血幹細胞が初期には減少するが1年以上経つと増えてくることが判明した。マウスは野生型マウスと比較して早めにミエロイド優位の造血を示し、老化型の血液像を示す。またChIPseqを用いた研究で、ASXL1のゲノムへの結合は代表的活性化マークであるヒストンH3K4me3と強く相関し、ASXL1-MTが存在するとH3K4me3が逆に著しく抑制されることが判明した。上記の結果から、我々の作成したASXL1-MT-KIマウスはクローン性造血の良いモデルと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
ASXL1-MT-KIマウスが野生型マウスより早く老化型の造血を呈すること、前白血病状態にありRunx1変異体や複製可能レトロウイルスによるinsertional mutagenesisで白血病を発症することを示すことができ、論文として発表することができた(Nagase et al. J Exp Med, in press)。これらの結果はASXL1-MTの発現が造血細胞においてゲノム不安定性を誘導して二次的遺伝子変異が入りやすくなっていることが考えられる。すでに我々はDNA damageが更新していること、ミトコンドリアROSが上昇していることを見出しており、今後ASXL1変異とこれらの事象がどのように関係しているかを明らかにする予定である。一方、ASXL1-MT-KIマウスと野生型マウスのcKit陽性骨髄細胞でのクロマチン沈降法(ChIP)の結果からASXL1が従来関係が深いと言われていたヒストン抑制マークであるH3K27me3ではなく活性化マークの代表であるH3K4me3と極めて強い相関を示した。興味深いことにASXL1-MTの結合で、H3K4me3が著しく低下することが判明した。またASXL1はBAP1と共同してH2AK119Ubを脱ユビキチン化することが知られているが、今回の結果ではASXL1結合と相関していることが判明した。これらの結果は今までの知見とは異なるもので、その方向でも研究を進めている。
これまでの実験でASXL1-MT-KIマウスにおいて老化が進み、前白血病状態になるのはミトコンドリアが活性化してDNAダメージが更新していることと関連があると考えている。そこで以下のような実験を行うことによって、ASXL1-MT-KIマウスにおける老化進行、易白血病移行性の分子機序を調べる。1)造血幹細胞分画の遺伝子発現プロファイルをRNAseqで調べて、ミトコンドリア活性化、ROSの上昇に関与しうる遺伝子発現変化を探す。2)造血細胞移植匂いてASXL1-MT-KIマウスの造血幹細胞は生着が悪いが、NACの投与で回復するかを調べる。また同時にin vitroのコロニー形成能が活性化されるかも調べる。3)ミトコンドリア活性を抑制するメトフォルミンのASXL1-MT-KIマウスの造血細胞に対する効果をin vivo及びin vitroで調べる。4)DNAダメージについてはγH2AXで調べただけなので、コメットアッセイも行い確認する。5)ASXL1-MT-KIマウスの造血細胞のメタボローム解析を行いTCAサイクルと解糖系のバランスを調べる。6)ASXL1-MT-KIマウスが造血器腫瘍を発症した場合、付加的な遺伝子変異が何であったかを調べる。一方、ASXL1-MTが存在するとH3K4me3が低下するという結果は、ASXL1のノックダウンでH3K4me3が低下するという我々の以前の結果(Inoue et al. Leukemia in press)と呼応している。ASXL1-MTとBAP1でH2AK119Ubを脱ユビキチン化する(Asada et al. 論文revise中)ことを考えると、ASXL1の結合がH2AK119Ubと相関するというデータ(Nagase et al. J Exp Med, in press)と呼応して興味深い。多角的な視野で研究を進める予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 産業財産権 (1件)
Blood
巻: 131 号: 3 ページ: 274-275
10.1182/blood-2017-12-816595
The Journal of Experimental Medicine
巻: 印刷中 号: 6 ページ: 1729-1747
10.1084/jem.20171151
Leukemia
巻: 印刷中 号: 6 ページ: 1327-1337
10.1038/s41375-018-0083-3
巻: 32 号: 2 ページ: 419-428
10.1038/leu.2017.227
Journal of Biological Chemistry
巻: 292 号: 30 ページ: 12528-12541
10.1074/jbc.m117.785675
Cancer Science
巻: - 号: 4 ページ: 553-562
10.1111/cas.13168
Blood Advances
巻: 1 号: 18 ページ: 1382-1386
10.1182/bloodadvances.2016002725